住宅ローンを検討する際、「自分の年収でどのくらいの金額を借りられるのか」「無理なく返済していけるのか」、と心配されるかたも多いのではないでしょうか。住宅ローンを初めて借入れるかたも、借換えをするかたも、借入可能額の目安がわからず不安になることもあるでしょう。
この記事では、年収に応じて借入額をどのように考えたらよいのか、また実際に借入額を決める際の注意点について、ファイナンシャルプランナーとして活躍されるラポール・コンサルティング・オフィス 代表 竹国さんに解説していただきます。
まずは、住宅ローンの借入れを検討しているかたの年収と、借入額の関係について、基本的なことから見ていきましょう。
住宅ローンの審査における年収とは、いわゆる「手取り」収入ではなく、税金や社会保険料が引かれる前の「額面」収入を指すことが一般的です。給与収入以外に収入のない会社員であれば、源泉徴収票の「支払金額」欄に記載された金額のことです。自営業者の場合は、売上ではなく売上から経費を差し引いた「所得」のことを指します。
共働きの夫婦など、一方が連帯債務者や連帯保証人などとなり、2人で協力して住宅ローンを組む場合、2人の年収を合算できる場合があります。
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収入に対して住宅ローンの返済負担が過大とならないよう、借入可能額には「総返済負担率(返済比率)」という基準が設けられていることがあります。
総返済負担率(返済比率)とは、年収に対するすべての借入れ(住宅ローン以外の自動車ローンなども含む)の年間合計返済額の割合のことです。具体的には下記の計算式の通り、総返済負担率は年間返済額(毎月の返済額12カ月分+ボーナス加算額)を年収で割って計算します。ここでの「返済額」とは、返済された元本のみではなく、実際に支払う元本と利息の合計です。
例えば年収600万円、毎月の返済額が10万円、年2回のボーナス返済が各30万円であれば、総返済負担率は30.0%となります。
このとき、住宅ローン以外に自動車ローンやカードローン、奨学金などの返済があれば、その返済額も年間返済額に合算されます。
例えば、フラット35では年収によって総返済負担率の上限が定められており、年収400万円未満のかたは総返済負担率が30.0%以下、400万円以上のかたは35.0%以下であることが申込要件のひとつとなっています。
借入可能額は、税金や社会保険料が引かれる前の年収を基準のひとつとして判断されますが、実際の返済は、年収から税金や社会保険料を差し引いた手取り収入から行うものです。住宅ローンの返済以外にも生活費はかかりますし、老後資金や教育費、将来に備えるための貯蓄も考えなければならないでしょう。
手取り収入から日々の生活費と貯蓄に充てる資金を確保し、残った金額から逆算して借入額を決めるというのもひとつの方法といえるでしょう。住宅金融支援機構のシミュレーションツールなどを使えば、毎月の返済額から逆算して借入可能額を計算することができます。
また、住宅購入の際に自己資金(頭金)をどのくらい用意できるかも検討しておきたいポイントです。諸費用を含めて住宅価格の1〜2割程度の自己資金を準備するのか望ましいとする考え方もありますが、現在準備できる自己資金と将来見込まれる支出のバランスを考慮して決めるようにしましょう。頭金を多く入れれば借入額を減らせますが、急な出費や将来必要となる資金に充てられる手元資金はそれだけ減ってしまいますので、注意が必要です。
一般的には、住宅ローンの借入可能額と自己資金の合計額が、諸費用を含む住宅購入予算の上限となります。予算が希望する物件の価格に満たない場合や、充分な余裕がないと感じられる場合には、金利の低い他の住宅ローンを探す、購入を延期して頭金を貯める、購入する物件を見直すなどの再検討が求められます。
全期間固定金利の住宅ローンであるフラット35を例とし、年収によって借入可能額と毎月の返済額がどのように変わるのか、年収別に説明します。
金利が年率1.2%、1.4%、1.6%の場合で、それぞれ試算してみましょう。金利以外の借入条件を下記の通りに統一します。なお、借入可能額と毎月の返済額の計算結果は概算値となります。
借入条件:借入期間35年、元利均等返済、ボーナス返済なし、借入れは住宅ローンのみ
【金利(年率)1.2%の場合】
年収 | 400 万円 | 500 万円 | 600 万円 | 700 万円 | 800 万円 |
借入可能額 | 3,999 万円 | 4,999 万円 | 5,999 万円 | 6,999 万円 | 7,999 万円 |
毎月の返済額 | 11.7 万円 | 14.6 万円 | 17.5 万円 | 20.5 万円 | 23.4 万円 |
【金利(年率)1.4%の場合】
年収 | 400 万円 | 500 万円 | 600 万円 | 700 万円 | 800 万円 |
借入可能額 | 3,871 万円 | 4,839 万円 | 5,807 万円 | 6,775 万円 | 7,743 万円 |
毎月の返済額 | 11.7 万円 | 14.6 万円 | 17.5 万円 | 20.5 万円 | 23.4 万円 |
【金利(年率)1.6%の場合】
年収 | 400 万円 | 500 万円 | 600 万円 | 700 万円 | 800 万円 |
借入可能額 | 3,750 万円 | 4,687 万円 | 5,625 万円 | 6,562 万円 | 7,500 万円 |
毎月の返済額 | 11.7 万円 | 14.6 万円 | 17.5 万円 | 20.5 万円 | 23.4 万円 |
(住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用してSBI マネープラザが作成。手数料などの諸費用は計算に含めていません)
上記の表から、その他の条件が同じ場合、金利によって借入可能額が変化することがわかります。例えば年収600万円のかたの場合、金利が年率1.2%の場合と年率1.6%の場合では、借入可能額に約370万円もの差が生じます。
住宅金融支援機構がホームページで公開しているデータによると、2019年中では1月の借入金利が最も高く1.33%、反対に最も低いのは9月と10月の1.11%でした(※)。年収600万円の場合、借入金利以外の条件が同じならば、借入金利が0.2%異なるとフラット35の借入可能額は約200万円変わりますから、借入額を決める際に金利が大きく影響する要素であることがわかります。
※借入期間が21年以上35年以下、融資率が9割以下、新機構団信付きのフラット35で、取扱金融機関のうち最低金利を比較しています。
住宅購入価格の目安のひとつに、「年収倍率」というものがあります。
年収倍率とは、住宅購入資金が世帯年収の何倍かを示す指標のことをいいます。住宅金融支援機構の「2019年度 フラット35利用者調査」(下表)から、直近の住宅購入価格の全国平均は年収の約5.5~7.3倍であることがわかります。平均の値は、全て概数になります。
融資区分 | 平均の年収倍率 | 物件購入価格 (平均の所要資金) |
平均の世帯年収 |
---|---|---|---|
土地付注文住宅 | 7.3倍 | 4,257万円 | 628万円 |
土地代を含まない注文住宅 | 6.5倍 | 3,454万円 | 598万円 |
建売住宅 | 6.7倍 | 3,494万円 | 559万円 |
新築マンション | 7.1倍 | 4,521万円 | 763万円 |
中古戸建 | 5.5倍 | 2,574万円 | 513万円 |
中古マンション | 5.8倍 | 3,110万円 | 611万円 |
(出所:住宅金融支援機構「2019年度 フラット35利用者調査」を基にSBIマネープラザが作成)
同調査によれば、全国のフラット35利用者の世帯年収の平均は2009年度から2019年度の間に620万円から607万円へとほぼ横ばいで推移しているのに対し、住宅購入価格(所要資金)の平均は例えばマンションですと同期間に約33.4%上昇しており、年収倍率も上昇傾向にあります。
(出典:住宅金融支援機構「2019年度 フラット35利用者調査」)
「年収の5倍以内」が住宅購入価格の目安と言われることもありますが、それは頭金が最低でも2割必要とされ、借入金利が5%を超えていたような時代の話であり、低金利の現在の状況にそのまま当てはめるのは適切とは言えません。物件を購入する時期や選ぶ物件の価格などはより多様化していますし、年収倍率はひとつの目安ではありますが、収入に対して無理のない返済額となっているのであれば、過度に意識する必要はないと考えられます。
>>住宅ローンに関する様々なデータは、こちらの記事(住宅購入に関する平均データまとめ│借入金額の目安など)でも解説しています。
ここまで借入可能額について説明してきましたが、「借入可能額の上限=無理なく返済できる金額」とは限りません。一度立ち止まって以下のような長期的な視点でよく考えてみましょう。
住宅ローンの借入額を決めるうえでは、希望する生活水準を実現するために、月々の返済額はいくらが妥当なのか、他の支出とのバランスを考えることがポイントです。
住宅ローンの返済は長期にわたって続き、その間にはさまざまなライフイベントも想定されます。子どもの人数や年齢、進学プラン、まとまったお金のかかる車の購入や旅行の計画、購入する家にずっと住み続けるのか将来買い替えを行うのか、老後はどのように暮らしていきたいのかなど、これらのライフイベントに優先順位をつけながら考えてみましょう。
そして、そのための費用がいつ、どのくらい必要になるのか、具体的な金額を想定して資金計画を立ててみましょう。日々の生活費と住宅ローンの返済、ライフイベント実現に必要な貯蓄額から、毎年の収支をシミュレーションしたうえで、無理のない返済プランとなっていなければなりません。
どのようにシミュレーションしたらよいか迷う場合や、ご自身でシミュレーションするのが難しい場合には、金融機関などが開催している無料相談会に参加してみるのもひとつの方法です。
マイホームを購入すると、住宅ローンの返済以外にも、毎年の固定資産税や都市計画税、建物の火災保険料、定期的な修繕費用、リフォーム費用など、賃貸物件ではかからない費用がかかります。
毎月の収入に対してぎりぎりの返済額となる住宅ローンの組み方をしていると、上記のような費用が発生した際に赤字になってしまいます。赤字を補てんするため貯蓄を切り崩すことになれば、他のライフプランにも影響を及ぼしかねません。今暮らしている賃貸物件の家賃と同じくらいの負担なら大丈夫と考えず、余裕を持って返済プランを立てることが大切です。
ボーナスの支給額は会社の業績や個人の実績などによる影響を受けやすく、リーマンショックや昨今のコロナ禍のような事態によって、ボーナスが大幅に減額されたり、支給されなくなったりするケースも想定されます。
ボーナスの変動によってローン返済に支障が出ないよう、借入額はボーナスありきではなく、ボーナスがなくても返済が続けられる金額に留めるのが望ましいでしょう。収入に占める歩合給や残業手当の割合が大きいかたにも同様のことが言えます。
自己資金(頭金)を増やせば、住宅ローンの借入額を減らせますし、商品によっては借入金利が下がる場合があります。しかし、頭金を増やし過ぎて手元資金が少なくなると、急な出費や収入減少などに対応できなくなる恐れもあります。また、「このためのお金が欲しい!」という何かに出会ったときに、それをあきらめざるを得なくなるかもしれません。
このような事態を避けるためにも、もしもの場合の資金は手元に残しておきたいところです。特に個人事業主などの収入が変動しやすいかたは、手元資金を厚めに残しておくほうが安心でしょう。
手元にある資金を住宅購入の頭金にするか、将来の自動車購入費用や教育費用に充てるかについて、検討している場合には注意が必要かもしれません。
一般的に住宅ローンに比べ自動車ローンや教育ローンの金利は高く設定されていること、自動車ローンや教育ローンには住宅ローン控除(※)のような税制優遇制度がないことを考えると、手元資金を住宅購入の頭金とするよりも将来の自動車購入費や教育費に充てたほうが有利というケースも考えられるでしょう。
※住宅ローン控除についてはこちらの記事(「住宅ローン控除とは?」適用を受ける方法と要件、控除額の計算方法)をご覧ください。
住まいは生活を豊かにするためのひとつの要素でしょう。そのため、住宅の購入が日々の生活やライフプランの実現にとって重荷となるのは望ましくありません。
住宅ローンの返済が生活を過度に圧迫しないか、優先順位の高いライフイベントの実現を妨げないか、長期にわたる返済期間を通して余裕をもって返済できるように計画しましょう。これらの点を意識しながら、あなたにとって無理がない借入額・返済額とすることが大切です。
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