会社員が加入する厚生年金における月給と賞与に対する保険料は、標準報酬月額や標準賞与額に保険料率18.3%を掛けた額です。
現在、保険料率はすべての人について18.3%で同一ですが、人によって標準報酬月額や標準賞与額が異なるため、厚生年金の保険料額も差が出ることになります。この差が老齢厚生年金や障害厚生年金、遺族厚生年金の年金額に影響します。 今回は厚生年金の保険料について、社会保険労務士の高木 隆司 先生にご説明いただきます。
標準報酬月額は月給額を数千円や数万円の幅で区分した額、標準賞与額は賞与額の1,000円未満を切り捨てた額です。保険料額は、標準報酬月額や標準賞与額に18.3%を掛けた額です。
厚生年金は、会社員を対象とする公的年金です。なお、厚生年金の加入者は同時に国民年金の第2号被保険者とされますが、厚生年金の保険料が徴収されることにより、国民年金の保険料を納めたものとされます。会社員は老後、老齢厚生年金と老齢基礎年金を受給しますが、加入中の保険料の基となった標準報酬月額や標準賞与額が年金額に影響するのは、老齢厚生年金です。老齢基礎年金の年金額には、加入中のこれらの額は影響しません。
厚生年金の保険料額は、標準報酬月額や標準賞与額に保険料率を掛けた額です。現在、保険料率はすべての人について18.3%です。
厚生年金の保険料は労使折半負担、つまり加入者本人と会社が半分ずつ負担します。たとえば標準報酬月額が30万円だとすると、その18.3%は54,900円ですが、本人の月給から天引きされるのはこの半分の27,450円です。そして、会社がもう半分の27,450円を負担し、合計額を国に納めます。賞与に対する保険料も労使折半での負担です。
保険料は加入期間の各月について徴収され、納付期限は翌月末です。厚生年金は、就職した日に加入者の資格を取得し、退職日の翌日に資格を失いますが、加入期間とされるのは資格取得月から喪失月の前月までの期間です。 加入者が月給から天引きされる保険料は前月分の保険料です。なお、賞与については支払われた賞与から直接保険料が天引きされます。
厚生年金の加入者は、原則として健康保険の加入者です。健康保険の保険料の算出方法や徴収方法は、厚生年金と同じです。したがって、会社員は月給と賞与から厚生年金および健康保険の保険料が天引きされるわけです。
健康保険の保険料率は、全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)の場合は都道府県支部ごとに若干異なり、組合管掌健康保険の場合は組合ごとに異なります。たとえば令和3年3月現在、協会けんぽ東京支部の保険料率は9.84%です。なお、40歳以上の加入者については介護保険料率1.8%が加わるため11.64%です。
標準報酬月額は月給額に基づいて決められ、標準賞与額は賞与額に基づいて決められます。
月々の月給額は残業や欠勤の有無、またそれらの時間数などによって微妙に上下します。これを保険料額や年金額の基とするのはわずらわしいため、厚生年金においては月給額を数千円から数万円の幅で32に区分した標準報酬月額に置き換えます。月給に対する保険料額は、各月に実際に支払われた月給額の18.3%ではなく、標準報酬月額の18.3%です。
なお、厚生年金の標準報酬月額は、88,000円が下限、65万円が上限とされます。たとえば、月給額が100万円であったとしても、標準報酬月額は上限の65万円とされ、これに基づいて保険料が徴収され、老齢厚生年金などの年金額が計算されます。
定時決定とは毎年一度、加入者の標準報酬月額を決め直す手続です。4月、5月、6月の3ヵ月間に支払われた月給額を平均し、その額を標準報酬月額表の報酬月額に当てはめて標準報酬月額を決め直します。このときの月給額は、税金や社会保険料を控除する前の額、残業代や各種手当を含む額です。定時決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの1年間使用されます。その間の各月の月給額が残業や欠勤などによって上下しても、月給に対する保険料額は標準報酬月額に18.3%を掛けた額です。
定時決定された標準報酬月額は、9月から翌年8月までの1年間使用されますが、その間に基本給などの固定的賃金が変動し、変動月から3ヵ月間に支払われた月給額から導き出される標準報酬月額が、それまでの標準報酬月額と比べて2等級以上変動するときには、標準報酬月額が改定されます。これを随時改定といいます。改定されるのは月給額が変動した月からではなく、その月から3ヵ月が経過した4ヵ月目からです。変動月から3ヵ月間は、改定前の標準報酬月額です。随時改定された標準報酬月額は、原則として改定後の8月まで使用されます。
会社員が出産したときは産前6週、産後8週の14週間にわたって産前産後休業を取得できます。また、原則として子どもが1歳に達するまでの間、育児休業を取得できます。産前産後休業期間および育児休業期間の保険料は、本人負担分も会社負担分も徴収されません。この期間は、年金額の計算上は休業前の標準報酬月額であったものとされます。
産前産後休業または育児休業を終えて会社に復帰した後も、子育てのために短時間勤務となったため、あるいは子どもが生まれる前のように残業できなくなったため、月給額が減る可能性があります。この場合には、固定的賃金が変動していなくても、また2等級以上の差がなくても、本人が会社を通じて年金事務所に申出ることにより、標準報酬月額が改定されます。
月給や賞与の支払明細書に記載されている厚生年金の保険料額を9.15%(0.0915)で割った額が、標準報酬月額であり標準賞与額です。これらの額が老齢厚生年金の年金額に影響します。月々の月給額や賞与額とぴたり一致するとは限りませんが、あまりに大きくかけ離れているときは、いちど会社に説明を求めたほうが良いかもしれません。