住宅の購入は、多くの人にとって何度も経験するものではありません。初めて住宅ローンを利用する人にとっては、いくらまで借りられるのか、あるいはいくらまで借りていいのかという点は気になるところではないでしょうか。
今回は、年収500万円の世帯が住宅ローンを利用する際の借入可能額の目安と、実際に無理なく返済できる現実的な借入金額を決める方法について、ファイナンシャルプランナーとして活躍されるラポール・コンサルティング・オフィス代表の竹国さんに、解説していただきました。
住宅ローンの借入可能額は、利用する金融機関や商品による違いもありますが、年収だけではなく、住宅ローンを含む全ての借入れの返済額などから、様々な要因に基づいて決まります。
同居する家族(世帯)の2人以上が収入を得ている場合、その全ての人の年収を合計したものが「世帯年収」です。共働き夫婦が住宅ローンを借入れる場合、収入合算という方法を使って、夫婦2人の年収をあわせた世帯年収で借入可能額を計算すれば、借入可能額を増やせることになります。
ここでいう年収とは、いわゆる「手取り」収入ではなく、税金や社会保険料が引かれる前の「額面」収入を指します。給与収入以外に収入のない会社員であれば、源泉徴収票の「支払金額」欄に記載された金額のことです。自営業の場合は、売上そのものではなく、売上から経費を差し引いた「所得」のことを指します。
住宅ローンの借入可能額は、金融機関ごとに設けられている様々な審査基準をもとに総合的に判断されます。その基準のひとつが「総返済負担率(返済比率)」です。
総返済負担率(総返済比率)とは、すべての借入れ(住宅ローン以外の自動車ローンなども含む)に関して、年収に占める年間合計返済額の割合のことです。具体的には下記の計算式の通り、総返済負担率は年間返済額(毎月の返済額12カ月分+ボーナス加算額)を年収で割って計算します。ここでの「返済額」とは、返済された元本のみではなく、実際に支払う元本と利息の合計になります。
例えば年収500万円、毎月の返済額が10 万円、年2 回のボーナス返済時の上乗せ分が各10万円であれば、総返済負担率は28.0%となります。
このとき、住宅ローン以外に自動車ローンやカードローン、奨学金などの返済があれば、その返済額も年間返済額に合算されます。
例えば、フラット35では年収によって総返済負担率の上限が定められており、年収400万円未満のかたは総返済負担率が30%以下、400万円以上の人は35%以下であることが申込要件となっています。
実際の住宅ローン借入可能額は、金利(審査金利)や住宅購入金額(物件価格)に占める借入金額の比率(融資率)や、住宅ローン以外の借入れの返済の有無によって変わることがあります。
例として、フラット35においては、実際に適用される金利と同じ金利を使って借入可能額が計算されます。
額面年収500万円の世帯がフラット35を利用する場合、総返済負担率が35%となるのは年間返済額175万円(毎月の返済額は145,833円)であり、ここから借入可能額が逆算されます。
【共通条件】
借入期間:35年
返済方式:元利均等返済
ボーナス払い:なし
金利タイプ:全期間固定金利(フラット35)
【条件①】
融資率:9割以下
適用金利:年1.29%
【条件②】
融資率:9割超
適用金利:年1.55%
審査金利 | 借入可能額(概算) | |
---|---|---|
条件①:融資率9割以下 | 1.29% | 4,926万円 |
条件②:融資率9割超 | 1.55% | 4,725万円 |
※住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用して計算。手数料等の諸費用は計算に含めていません。
年収500万円の世帯が融資率9割以下でフラット35を利用する場合、このコンテンツの執筆時点(2020年6月)の金利水準での借入可能額の目安は約4,926万円です。融資率9割を超えると適用金利が上がり、借入可能額は融資率9割以下の場合に比べ約200万円減少します。
購入する住宅の価格を検討する際の目安のひとつに、住宅の購入金額を年収で割った「年収倍率」が用いられることがあります。ここからは、この年収倍率を用いることの是非について検証してみましょう。
国土交通省の調査によると、2019年度における三大都市圏の年収倍率は注文住宅で6.5倍、分譲マンションでは5.6倍となっています。
【三大都市圏における土地および住宅建築資金と平均年収倍率】
注文住宅購入世帯 | 分譲マンション購入世帯 | |
---|---|---|
平均購入資金 | 5,085万円 | 4,457万円 |
平均年収倍率 | 6.5倍 | 5.6倍 |
平均世帯年収 | 781万円 | 798万円 |
(出所:国土交通省「令和元年度 住宅市場動向調査 報告書」※ を基にSBIマネープラザ作成)
※国土交通省「令和元年度 住宅市場動向調査 報告書」
(調査対象:平成30年4月~平成31年3月に住み替え・建て替え・リフォームを行った世帯)
三大都市圏とは首都圏(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)における結果を対象としています。また、年収倍率の計算においては小数点以下第2位を四捨五入しています。
この調査における平均世帯年収はいずれも800万円近い金額でしたが、単純にこの年収倍率を世帯年収500万円に当てはめて、購入資金の全額を住宅ローンで準備すると仮定して、年収倍率で購入する住宅の価格を考える是非を検討してみましょう。
【共通条件】
借入期間:35年
金利:年率1.5%(固定金利)
返済方法:元利均等返済、ボーナス払いなし
【条件①】
注文住宅(500万円×6.5倍=3,250万円)を購入する場合
【条件②】
分譲マンション(500万円×5.6倍=2,800万円)を購入する場合
借入金額 | 毎月の返済額 | 年間返済額 | 総返済額 |
---|---|---|---|
①注文住宅3,250万円 | 10万円 | 120万円 | 4,180万円 |
②分譲マンション2,800万円 | 8.6万円 | 103.2万円 | 3,601万円 |
※住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用して計算。手数料等の諸費用は計算に含めていません。
上記の条件下では、このような結果となりました。ただし、住宅の購入時に自己資金を準備して借入金額を減らすと、実際の返済額はこれとは異なります。
なお、2015年度時点と比べると、注文住宅では7.1倍、分譲マンションでは5.2倍の年収倍率という調査結果となり、大きな変動がないことが伺えます。
「年収倍率5倍以内」が無理のない住宅購入金額の目安といわれた時代がありました。この5倍というのは、1992年に宮澤内閣の閣議決定の中で「目標」のひとつとして掲げられた数字が基になっているとされています。当時は民間の住宅ローン金利が8%を超える時期もあり、借入金額が同じでも返済額は現在の2倍以上になる状況でした。金利や物件価格といった前提条件の違う当時の目安を、現在にそのまま当てはめるのはやや無理があるでしょう。
そもそも世帯年収、家族構成、準備できる頭金の額などが違う場合に、一律に年収倍率で借入金額を考える必要性は低いと言えます。
では、住宅ローンの借入金額を決める際の指標として、もう一つの基準を考えてみましょう。年収に占める返済額の割合を示す「返済負担率」は、25%以下に抑えるのが望ましいとされていますが、実際にシミュレーションを行ったうえで、自身にとって無理のない返済額であることが重要です。
返済負担率は金利や他の借入れなどを加味して計算されるため、返済に無理がないかどうか、年収倍率よりも実態に即したシミュレーションを行うことができるでしょう。
税込年収が500万円で他の借入れがない場合、年間返済額125万円以下、ボーナス返済を行わない場合の毎月の返済額が104,166円以下であれば、返済負担率は25%以下になります。
借入金額や金利の条件を変えて返済額を試算したのが下表です。
【条件】
借入期間:35年
返済方式:元利均等返済
ボーナス払い:なし
金利タイプ:①全期間固定金利、②③変動金利
金利:下表の動きをとると仮定
当初10年間 | 11〜15年目 | 16〜20年目 | 21〜25年目 | 26〜35年目 | |
---|---|---|---|---|---|
①全期間固定金利 | 1.5% | → 1.5% | → 1.5% | → 1.5% | → 1.5% |
②変動金利A | 0.5% | ↑ 1.0% | ↑ 1.5% | ↑ 2.0% | ↑ 2.5% |
③変動金利B | 0.5% | ↑ 1.0% | ↑ 1.5% | ↓ 1.0% | ↓ 0.5% |
(矢印の向きは直前からの金利の動向を示しています)
年収500万円に対する返済負担率が25%以下(毎月104,166円以下、年間125万円以下)となる返済額を、赤字で示すと下記の通りとなります。
毎月の返済額 | 年間返済額 | 総返済額 | ||
---|---|---|---|---|
①全期間固定金利 | 全期間 | 91,855円 | 1,102,260円 | 38,579,007円 |
②変動金利A | 当初10年間 | 77,875円 | 934,500円 | 35,986,288円 |
11〜15年目 | 82,750円 | 993,000円 | ||
16〜20年目 | 86,826円 | 1,041,912円 | ||
21〜25年目 | 90,010円 | 1,080,120円 | ||
26〜35年目 | 92,218円 | 1,106,616円 | ||
③変動金利B | 当初10年間 | 77,875円 | 934,500円 | 34,341,201円 |
11〜15年目 | 82,750円 | 993,000円 | ||
16〜20年目 | 86,826円 | 1,041,912円 | ||
21〜25年目 | 83,714円 | 1,004,568円 | ||
26〜35年目 | 81,657円 | 979,884円 |
※住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用して計算。手数料等の諸費用は計算に含めていません。
毎月の返済額 | 年間返済額 | 総返済額 | ||
---|---|---|---|---|
①全期間固定金利 | 全期間 | 107,164円 | 1,285,968円 | 45,008,901円 |
②変動金利A | 当初10年間 | 90,854円 | 1,090,248円 | 41,984,064円 |
11〜15年目 | 96,542円 | 1,158,504円 | ||
16〜20年目 | 101,297円 | 1,215,564円 | ||
21〜25年目 | 105,012円 | 1,260,144円 | ||
26〜35年目 | 107,588円 | 1,291,056円 | ||
③変動金利B | 当初10年間 | 90,854円 | 1,090,248円 | 40,064,796円 |
11〜15年目 | 96,542円 | 1,158,504円 | ||
16〜20年目 | 101,297円 | 1,215,564円 | ||
21〜25年目 | 97,667円 | 1,172,004円 | ||
26〜35年目 | 95,266円 | 1,143,192円 |
※住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用して計算。手数料等の諸費用は計算に含めていません。
毎月の返済額 | 年間返済額 | 総返済額 | ||
---|---|---|---|---|
①全期間固定金利 | 全期間 | 122,473円 | 1,469,676円 | 51,438,816円 |
②変動金利A | 当初10年間 | 103,834円 | 1,246,008円 | 47,981,794円 |
11〜15年目 | 110,334円 | 1,324,008円 | ||
16〜20年目 | 115,768円 | 1,389,216円 | ||
21〜25年目 | 120,013円 | 1,440,156円 | ||
26〜35年目 | 122,957円 | 1,475,484円 | ||
③変動金利B | 当初10年間 | 103,834円 | 1,246,008円 | 45,788,352円 |
11〜15年目 | 110,334円 | 1,324,008円 | ||
16〜20年目 | 115,768円 | 1,389,216円 | ||
21〜25年目 | 111,618円 | 1,339,416円 | ||
26〜35年目 | 108,876円 | 1,306,512円 |
※住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用して計算。手数料等の諸費用は計算に含めていません。
借入金額が3,000万円であれば、上記のいずれの金利条件でも返済期間を通して返済負担率が25%を下回ります。一方で借入金額が3,500万円や4,000万円になると、変動金利型の金利動向によっては返済負担率が25%を超えるケースが出てきます。
ここでは返済負担率25%を基準としましたが、実際にはご自身の状況によって無理のない水準は変わってくるでしょう。例えば自動車をローンで買われる世帯においては、これによって返済負担率は上がります。
ご自身にとって無理のない返済負担率の水準を考え、複数の返済シミュレーションを計算すると、現実的な借入額が検討できるのではないでしょうか。
同じ年収500万円の世帯でも、単身か共働きか、子どもがいるかいないかなど、それぞれの状況によって住宅ローンに対する負担感は異なります。そのため適正な住宅ローンの借入金額も一律に決まるものではありません。次のようなポイントを押さえたうえで柔軟に考えることが大切です。
借入可能額の範囲内だから、返済負担率が25%以内だからといった理由で、借入金額を増やしてしまうのは賢明ではありません。住宅ローンの返済額が増えると、生活費や貯蓄に回せるお金が減ってしまい、日々の生活や教育資金、老後資金といった資金計画に支障をきたすおそれがあるのです。
返済額が多いと収入が減った場合などに返済不能に滞りやすい点も注意が必要です。また持ち家は賃貸と異なり維持費や修繕費など、住宅ローン以外の負担があることも忘れてはなりません。
住宅ローンの借入金額は、日々の生活やライフプランとのバランスを考慮し、必要な支出に支障がなく、将来に向けた貯蓄も計画的にできる範囲で行いましょう。
住宅ローンの借入可能額や返済負担率を考える際の年収は、税金や社会保険料などが引かれる前の「額面年収」が基準になっています。実際の手取りの金額は額面収入よりも少なく、その額は家族構成などにも左右されます。
また、住宅ローンの返済やそのほかの生活費の支払い、貯蓄などは手取りの金額の中から行うものです。住宅ローンの借入金額も、より実態に即した形で無理のない返済額となるよう、手取りの金額をベースに考えるとよいでしょう。
適正な住宅ローン借入金額は、年収が同じでもそれぞれが置かれた状況によって異なります。返済負担率25%以内、年収500万円世帯の場合の年間返済額125万円以内というのはあくまで目安です。完済まで無理なく返済していけるのか、シミュレーションを行うなどして十分に検討する必要があるでしょう。
住宅購入はライフプランの中でも大切なイベントですが、せっかく購入したマイホームが重荷となって、他の大切なこと(子どもの進学や万一の際の貯蓄など)が犠牲となることは避けたいところでしょう。収入のうちどれくらいの資金を住宅ローンの返済に振り分けるのか、他の支出とのバランスや、自身にとっての優先順位を考えたうえで決めることが大切です。