住宅ローンの金利が上昇する要因|借入時・返済中にできる対策とは?

2020年9月現在、同じ金融機関・同じタイミングでは、変動金利型の金利のほうが固定金利型の金利よりも低くなることが一般的ですから、借入時に変動金利型を選択するかたが多いのではないでしょうか。

それと同時に、変動金利型の住宅ローンを返済していくうえで、返済中の借入金利の上昇により返済額が増加してしまうことを不安に感じるというかたもいらっしゃるでしょう。

ここでは、住宅ローン金利が上昇する要因や、金利上昇が返済額へ与える影響、返済額が変動するリスクを軽減するための方法について、ファイナンシャルプランナーとして活躍されるラポール・コンサルティング・オフィス代表の竹国さんに、解説していただきます。

1.各金利タイプの借入金利を決定する要因


住宅ローンの金利タイプは大きく分けて、「全期間固定金利型」「変動金利型」「固定金利期間選択型」の3つのタイプがあります。金利タイプごとに金利の水準はそれぞれの異なる方法で決定され、連動しやすい指標も異なります。

1-1.全期間固定金利型

全期間固定金利型とは、借入時点で借入金利が確定し、完済まで金利が変動しない金利タイプの住宅ローンをいいます。例えば、独立行政法人住宅金融支援機構のフラット35が全期間固定金利型の住宅ローンにあたります。

全期間固定金利型の住宅ローンの借入時点の金利水準は、「長期金利」に連動しやすい特徴があります。代表的な長期金利の指標としては「10年物国債金利」があり、10年物国債金利が上昇すれば、全期間固定金利型の借入時点の金利も上昇する傾向があります。

1-2.変動金利型

変動金利型とは、景気動向や金融情勢による市場金利の変化に伴い、借入期間中に借入金利が変動する金利タイプの住宅ローンをいいます。

変動金利型の住宅ローンの借入金利は「短期金利」が基準となっており、短期金利の指標である「短期プライムレート」に連動して金利が決まることが一般的です。短期プライムレートとは、銀行が業績や財務状態などから最優良と判断した企業に対し、1年以内の短期融資を行う際に適用する金利であり、日本銀行の金融政策による影響も受けます。そのため、金融政策の変更などを受けて短期プライムレートが変動すると、変動金利型の住宅ローンの金利も変動する傾向があります。

1-3.固定金利期間選択型

固定金利期間選択型とは、変動金利型のうち、特約により一定期間借入金利が固定される金利タイプの住宅ローンをいいます。

固定金利期間選択型の住宅ローンの借入金利は、各固定金利期間に応じた「円金利スワップレート」が基準となっていることが一般的です。円金利スワップレートとは、固定金利と変動金利を交換する「金利スワップ」という取引において、短期金利に上乗せされる金利レートのことをいいます。この上乗せ分は、いわば固定金利期間中の金利変動リスクを回避するための「保険料」のようなものです。

この金利スワップレートは長期金利と似た動きをします。そのため長期金利(10年物国債金利)が上昇すれば金利スワップレートも上昇し、これに伴って固定金利期間選択型の住宅ローンの金利も上昇する傾向があります。

>>あわせて読みたい(住宅ローンの金利タイプ|固定金利型と変動金利型の違いとは?)

2.住宅ローンの借入金利が変動する要因


変動金利型や固定金利期間選択型の住宅ローンの利用者にとって、借入期間中の金利上昇による返済額の増加は、不安要素になるかもしれません。続いては、借入金利が変動する要因について見ていきましょう。

2-1.金利が上昇する要因

住宅ローンの借入金利が変動する要因は、様々なことが複雑に作用しているため、金利が上昇する理由をひとつに特定することは難しい部分があります。とはいえ、短期金利は日本銀行の政策金利、長期金利は市場金利から、それぞれ影響を受けている側面もあります。つまり、各金利タイプの借入金利の基準となっているこれらの金利の上昇が、住宅ローンの借入金利の上昇につながる傾向があります。

2020年9月現在、日銀は短期金利と長期金利の両方をコントロールする金融政策を行っており、金利は低い水準で推移しています。直近2020年7月に開催された日銀金融政策決定会合では、短期金利を誘導するために日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%を適用すること決定されています。また、長期金利の指標となる10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債を上限なく買入れる方針を維持するとしました。少なくともこの金融政策が維持されている間は、現在の低金利状態が継続しやすいと考えられます。

2-2.借入期間中に借入金利が上昇した場合のシミュレーション

借入期間中に住宅ローン金利が上昇した場合、月々の返済額や総返済額はどのくらい増加するのでしょうか。ここでは次のような条件で実際にシミュレーションを行い比較してみます。

〈共通条件〉
借入金額:4,000万円
借入期間:35年
返済方法:元利均等返済・ボーナス返済なし

金利タイプと借入金利
①全期間固定金利型/年1.3%
②変動金利型/当初年0.5%、以後10年ごとに0.5 %上昇
③変動金利型/当初年0.5%、以後10年ごとに1.0%上昇
④変動金利型/当初年0.5%、以後10年ごとに1.5%上昇

借入金利(年率 月々の返済額 総返済額
①全期間固定金利型
(35年間変動なし)
1~35年目 1.3% 118,592円 49,808,848円
②変動金利型
(ゆるやかに上昇)
1~10年目 0.5% 103,834円 46,384,842円
11~20年目 1.0% 110,334円
21~30年目 1.5% 114,435円
31~35年目 2.0% 115,875円
③変動金利型
(上昇)
1~10年目 0.5% 103,834円 49,338,134円
11~20年目 1.5% 117,086円
21~30年目 2.5% 125,771円
31~35年目 3.5% 128,920円
④変動金利型
(大きく上昇)
1~10年目 0.5% 103,834円 52,472,838円
11~20年目 2.0% 124,088円
21~30年目 3.5% 137,851円
31~35年目 5.0% 143,001円

住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用してSBIマネープラザが作成。手数料、その他の諸費用は計算に含まれていません)

①の全期間固定金利型の場合、月々の返済額は35年間一定で、毎月118,592円の返済となります。

②③④の変動金利型の場合、借入当初の月々の返済額は①に比べると少ないですが、借入後に住宅ローン金利が上昇していくとこの差は縮まり、③④は返済途中で逆転します。さらに④では総返済額も①を上回ります。

変動金利は借入当初、借入残高の多い時期に金利水準が低いことが有利に働き、10年間ごとに1.0%以内の金利上昇ペース(②③のケース)であれば総返済額で全期間固定金利型を下回ります。

将来の金利がどのように変動するか予測は難しいですから、金利タイプの選択ではこのようなリスクを考慮したうえで、金利が上昇した場合に貯蓄などで備えておくとよいでしょう。

3.住宅ローン金利の上昇への備え


住宅ローン金利の上昇とそれに伴う返済額の増加に備えるには、次のような方法があります。

3-1.全期間固定金利型を選択する

金利変動リスクを回避する方法としては、借入金利の変動しない「全期間固定金利型」を選択することが考えられます。他の3つの方法も後述しますが、金利変動リスクを回避する方法としてはそれらの中で最も効果があると考えられます。

ただし、全期間固定金利型は現状、変動金利型よりも借入時の金利が高く設定されていることが一般的ですし、市場金利の下落局面に恩恵を受けることもありません。

変動金利型の住宅ローンには金利変動リスクがあるものの、将来金利が上がるかどうかは「不確実」です。一方で全期間固定金利型の住宅ローンには金利変動リスクはありませんが、借入時点では変動金利型よりも高い金利を負担することが、ほぼ「確実」と言えます。

借入時点において、今後どの程度の返済額の増加なら許容できるのか考慮しておくことがポイントとなります。先程のシミュレーションにおいて、④の10年ごとに1.5%ずつ借入金利が上昇するケースでは、①の全期間固定金利型より総返済額が上回ります。不確実な要素ではありますが、このような金利上昇時に返済額の増加を許容できない場合には、全期間固定金利型を選択しておいたほうが無難と言えるでしょう。

既に変動金利型で返済していて将来の金利上昇が不安な場合、金利タイプを変更するなどの対応が考えられます。金融機関による違いはありますが、変動金利型から固定金利期間選択型への変更はいつでも可能であることが一般的です。ただし、金融機関や商品によっては、当初設定されていた金利の優遇が活用できない場合などがありますので、注意が必要です。
また、全期間固定金利型の住宅ローンであるフラット35に借換えて、残りの返済期間の返済額を確定させることも選択肢となるでしょう。

>>あわせて読みたい(フラット35に借換える際の流れと注意点についてFPが解説)

3-2.月々の返済額の増額に上限があるタイプを選ぶ

変動金利型の住宅ローンを元利均等返済方式で返済を行う場合、月々の返済額は一定期間(例えば5年など)ごとに見直されます。見直し後の返済額には、見直し前の返済額の1.25倍(125%)を上限とする「125%ルール」が適用されるタイプの住宅ローンがあり、このタイプは金利がどれだけ上昇しても、見直し期間後に「返済額が何倍にもなる」ということはありません。

この「125%ルール」は、元金均等返済方式を選んだ場合や、一部の金融機関では適用されません。返済額の大幅な増加が心配だという人は、125%ルールを採用している金融機関や商品を利用し、元利均等返済方式を選ぶこともひとつの対策となります。

【125%ルールのイメージ】

ただし、125%ルールが適用された場合、本来増額されるはずだった125%を超える部分(未払利息)については免除されるわけではなく、次の見直し以降の返済額に上乗せして返済する必要があります。次の見直しでも再度125%を超える返済額となる場合など、完済までに未払利息が解消できなければ、完済時にまとめて精算しなければならなくなります。将来の金利動向は予測できず、大幅な動きが生じることもありますので、このようなリスクがあることは知っておきましょう。

3-3.繰上返済を行う

繰上返済をすると住宅ローンの元金が減るため、金利上昇による利息の増加を抑える効果があります。繰上返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つの方法がありますが、将来の金利上昇への備えという観点では、金利変動の影響を避けやすい、期間短縮型のほうがリスク軽減効果は高くなると言えます。

また、これから住宅ローンを新規で借入れる場合には、頭金を多めに入れ、当初の借入金額を減らすことでも、同様の理由から金利上昇リスクは軽減できます。ただし、頭金を増やせば手元資金は少なくなり、借入金額によっては住宅ローン控除額が減るなど、デメリットもあります。手元資金と頭金とのバランスを考慮し、住宅ローンの控除期間終了後や金利が上昇したタイミングで繰上返済を行うのもひとつの方法です。

>>あわせて読みたい(「住宅ローンの繰上返済とは?」メリット・デメリット、借換えと比較)

3-4.ミックスローンを利用する

金融機関や商品によっては、変動金利型と固定金利型(固定金利期間選択型)を組み合わせて住宅ローンを組むことができる場合があります。これはミックスローンと呼ばれることがあり、異なる金利タイプを組み合わせることで、全額を変動金利型の住宅ローンで借入れるよりも金利上昇リスクを抑えることが可能になります。

【ミックスローンのイメージ】

4.金利上昇による返済額への影響は具体的な数字で考えることが大切


固定金利であれば「不確実」な金利の変動を回避できる一方で、元金の多い借入当初において変動金利よりも割高な金利をほぼ「確実」に負担することになります。このような点を考慮せず、金利変動リスクを回避するためだけに固定金利を選ぶのは、中長期的な人生設計、ライフプランニングにおいて、必ずしも得策とはならないかもしれません。

金利が上がると返済額が増えるという漠然とした不安感を抱くのではなく、どのくらいの金利上昇で返済額はどのくらい増加するのか、具体的な数字で考えることが大切です。自身が想定する金利上昇による返済額の増加が、無理なく返済していける範囲内に収まるのであれば、変動金利を選びやすくなるでしょう。やはり将来の不確実性は回避したい、資金に余力がなく金利の上昇に対応できるか不安というのであれば、固定金利型が選択肢となります。

将来の金利を完璧に予測することはできません。現在の金利は日銀の金融政策によってある程度コントロールされており、急激な変動は起きにくい状態となっていますが、将来のより大きい世界経済の流れの中において、変わっていくことは有り得ます。ただし、これを恐れ過ぎて目標が立てられなくなってしまうのは、良いことではありません。金利タイプの選択や返済計画を立てる際には、過度に不安を抱かず冷静な判断を心がけ、かつ余裕も持てるようにしていきましょう。

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タイトル

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  • 竹国 弘城

    ラポール・コンサルティング・オフィス代表

    証券会社、生損保総合代理店での勤務を経てファイナンシャルプランナー(FP)として独立。相談者の利益を第一に考え、自分のお金の問題に自分自身で対処できるようになるためのコンサルティングや執筆活動などを行う。
    【保有資格】1級FP技能士/CFP®


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