住宅ローンの繰上返済は、適切に利用されることによって、住宅ローンの利息を軽減することや、返済期間を短くすることができ、総返済額が抑えられます。
一方で、繰上返済にはデメリットもあります。ライフプランを考慮しながら適切に利用しないと、逆に家計の負担になり「繰上返済でかえって生活費に苦しむ」といった事態に陥ることもあるので注意しましょう。
今回は、公認不動産コンサルティングマスターの資格を持つ、株式会社住宅相談センターの吉田貴彦社長に、繰上返済のメリット・デメリット、借換えとの比較についてご説明いただきました。
まずは、住宅ローンの繰上返済について基本と繰上返済の具体的なシミュレーションについても確認してみましょう。
繰上返済とは、住宅ローンの返済期間中に毎回(毎月とボーナス時)の返済とは別に、元金を前倒しで返済することをいいます。繰上返済した資金が元金に充当されることで元金が減少し、その後の利息が軽減される効果があることが特徴です。また、繰上返済には、元金の一部を返済する「一部繰上返済」と元金全額を返済する「全額繰上返済」があり、一部繰上返済はさらに「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つのタイプに分けられます。
① 期間短縮型
期間短縮型は、一部繰上返済後も毎回(毎月と、設定している場合はボーナス時)の返済額を変えず、借入期間を短縮する方法です。
② 返済額軽減型
返済額軽減型は、一部繰上返済後も借入期間を変えず、毎回(毎月と、設定している場合はボーナス時)の返済額を減らす方法です。
(出所:住宅金融支援機構HPを基にSBIマネープラザが作成)
同じタイミングで同じ金額の一部繰上返済を行った場合、期間短縮型は返済額軽減型よりも利息軽減効果は高くなります。これは上の図でも示されていますが、主に元金を減らした後に利息が発生する期間の長さによるもので、期間短縮型の場合はこの利息が発生する期間が短くなりますから、合計の利息額をより抑えることができます。一方、返済額軽減型は利息が発生する期間は変わりませんので、利息軽減効果は比較的小さくなります。
ただし、いずれの方法でも利息軽減効果は期待できますので、繰上返済によって毎回の負担を減らしたいのか、将来的に総返済額を小さくしたいのかによって、より有利な方法を選択するとよいでしょう。
それでは、具体的に期間短縮型と返済額軽減型が、どれほど利息軽減効果があるのか、改めて数字を使って比較しながら説明します。繰上返済のタイミングを変えたパターン、繰上返済の金額を変えたパターンをシミュレーションしているので、それぞれの効果の違いにもご注目ください。
【借入条件】
借入金額 :3,000万円
金利 :年率1.30%(固定金利)
返済期間 :35年
返済方法 :元利均等返済、ボーナス返済なし
繰上返済手数料:無料
① 返済開始10年後(120ヵ月後)に100万円繰上返済したケース
毎月の返済額 (繰上返済前) |
毎月の返済額 (繰上返済後) |
短縮期間 | 利息軽減効果 | |
---|---|---|---|---|
期間短縮型 | 8.9万円 | 8.9万円 | 16ヵ月 | 29.6万円 |
返済額軽減型 | 8.9万円 | 8.6万円 | - | 8.3万円 |
(住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用してSBIマネープラザが計算。手数料等の費用は考慮していません。千円未満切り上げ)
② 返済開始15年後(180ヵ月後)に100万円繰上返済したケース
毎月の返済額 (繰上返済前) |
毎月の返済額 (繰上返済後) |
短縮期間 | 利息軽減効果 | |
---|---|---|---|---|
期間短縮型 | 8.9万円 | 8.9万円 | 15ヵ月 | 20.7万円 |
返済額軽減型 | 8.9万円 | 8.5万円 | - | 4.7万円 |
(住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用してSBIマネープラザが計算。手数料等の費用は考慮していません。千円未満切り上げ)
③ 返済開始10年後(120ヵ月後)に200万円繰上返済したケース
毎月の返済額 (繰上返済前) |
毎月の返済額 (繰上返済後) |
短縮期間 | 利息軽減効果 | |
---|---|---|---|---|
期間短縮型 | 8.9万円 | 8.9万円 | 31ヵ月 | 64.0万円 |
返済額軽減型 | 8.9万円 | 8.2万円 | - | 25.5万円 |
(住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用してSBIマネープラザが計算。手数料等の費用は考慮していません。千円未満切り上げ)
以上の3パターンを確認すると、期間短縮型のほうが返済額軽減型よりも利息軽減効果が高い、ということだけでなく、以下の2つの特徴が見られることがわかります。
1つ目は、繰上返済のタイミングが早いほど、利息軽減効果が大きいという点です。①と②のそれぞれ期間短縮型を比較すると、同じ100万円の繰上返済でも、利息軽減効果に8.9万円の差があります。
2つ目は、繰上返済の金額が多いほど、利息軽減効果が大きいという点です。①と③のそれぞれ期間短縮型を比較すると、繰上返済の金額は100万円と200万円で2倍の開きがありますが、利息軽減効果では約2.2倍の開きとなっています。
これら理由に関しては、次の章で説明します。
繰上返済のメリットとデメリットについて確認しつつ、前章で触れた「繰上返済が早いほど利息軽減効果が大きい」「金額が多いほど利息軽減効果が大きい」理由について見てみましょう。
繰上返済することの最大のメリットは利息を軽減できることにあります。繰上返済した資金は住宅ローンの元金部分の返済に充当されるので、繰上返済以降はその元金部分にかかる利息の支払いがなくなります。
住宅ローンの月々の返済額の内訳は「元金の返済額+利息」で示されますが、返済開始当初は利息の占める割合が大きく元金はなかなか減っていきません。これが、上記のシミュレーションで見た特徴の1つ目、繰上返済を早期に行うほど利息軽減効果が大きくなる理由です。
また、元金をより多く繰上返済したほうが、その元金にかかる利息は少なくなりますので、繰上返済の金額が多いほど利息軽減効果が大きくなります。これが前述の特徴の2つ目「繰上返済の金額が多いほど、利息軽減効果が大きい」という理由です。同様に、借入金利が高いほど元金にかかる利息額も大きくなることから、金利が高いほど利息軽減効果は大きくなります。
繰上返済する場合、金融機関や商品によっては繰上返済手数料が必要になることがあります。
また、繰上返済を行うことで、手元にある資金を減らすことになりますから、予定外の出費などに対応できなくなるおそれがあります。ライフプランを十分考慮して、将来支出(生活費や教育費等)を予定しているなら、無理に繰上返済をする必要はないでしょう。そもそも、借入当初から充分な余剰の資金があるのならば、頭金として支払うことで当初から負担を減らすことができます。早い時期に繰上返済ができるとすれば、所得を増やせた場合など、それだけの理由があり、かつその後の計画にも問題無いことが確認できた際が適切となるでしょう。
住宅ローンの頭金の検討ポイントについては、こちらの記事(「住宅ローン利用時に頭金はいくら用意する?」平均額と検討ポイント)をご覧ください。
続いて、繰上返済をする際の注意点について説明します。注意点もしっかり確認しておきましょう。
繰上返済をする際には、住宅ローン控除との兼ね合いにも注意が必要でしょう。なぜなら、繰上返済によって得られる利息軽減効果よりも、繰上返済を控えて住宅ローン控除をできるだけ活用するほうが、効果が大きくなる可能性があるためです。
住宅ローン控除を利用している間は、住宅ローンの契約から10年間にわたって年末の住宅ローン残高(上限4,000万円、新築・未使用の長期優良住宅などは上限5,000万円(※1))の1%相当額が納めた所得税等から控除されますが、この間に住宅ローンの繰上返済をした場合は年末残高が減ってしまうので控除額も減る可能性があります。また、繰上返済をしたことによって初回返済日から最終返済日までの期間(借入期間)が10年未満となった場合には、住宅ローン控除を受けることができなくなります。
場合によっては繰上返済を延期し、控除期間が終了した後に行う方が、経済的効果が大きくなることもありえます。
総合的に見て繰上返済のメリットがより大きいかどうかは、繰上返済の時期別にシミュレーションすることで確認できます。
なお消費税増税の負担軽減措置によって、2019年10月1日から2020年12月31日まで(※2)に入居し、消費税率10%で住宅を取得したかたについては、控除期間が13年間に延長されました。11~13年目の控除額の計算方法は、
①住宅ローンの年末残高又は住宅の取得対価(上限4,000万円、新築・未使用の長期優良住宅などは上限5,000万円)のうちいずれか少ない方の1%か、
②建物の取得価格(上限4,000万円、新築・未使用の長期優良住宅などは上限5,000万円)の2%÷3
のうち、①か②のいずれか少ない方の金額となります。
※1 消費税適用対象外の住宅取得の場合は、上限額はそれぞれ2,000万円、3,000万円となります。
※2 新型コロナウイルスの影響で入居が遅れた場合には、一定の期日までに契約をしていることを条件に、2021年12月31日までの入居でも適用されます。
金融機関や商品によって、繰上返済時の最低金額が異なるので注意が必要です。例えばフラット35の繰上返済は、インターネットサービス「住・My Note」を利用する場合は10万円以上、電話申込みの場合は100万円以上と決められています。最低金額の水準によっては家計への負担が大きくなり、悪影響となることがあります。
両親や配偶者から贈与を受けて繰上返済に充てることを検討している、というかたもいらっしゃるかもしれませんが、贈与を受けるかたの受贈額が基礎控除の年間110万円を超えた部分は贈与税の対象となりますのでご注意ください。
一部繰上返済と同様、利息軽減効果のある住宅ローンの見直し方法の一つに、住宅ローンの借換えが挙げられます。
住宅ローンの借換えとは、利用している住宅ローンの返済期間中に、利息軽減などの効果を得るために、より条件の有利な別の住宅ローンで借り直して現在借りている住宅ローンを一括返済することを指します。
住宅ローンの借換えは繰上返済と同じく利息軽減効果が期待されるので、両方を併用することで現状の借入条件によっては、その効果をより高めることができるかもしれません。
ただし、住宅ローンの借換えにはさまざまな諸費用が必要になります。金融機関によって異なる場合がありますが、一般的には、現在の住宅ローンを一括返済するための費用として、①期限前完済手数料、②抵当権抹消登記の費用が必要です。別の新たな住宅ローンを借入れるための費用として③保証料、④事務取扱手数料、⑤印紙代(印紙税)、⑥抵当権設定登記関係の費用などが必要になります。借換えを検討する場合は、これらの諸費用を差し引いてもなお利息軽減効果のほうが大きいかどうかを確認する必要があるでしょう。
住宅ローンの借換えでメリットが生じる条件については、こちらの記事(「住宅ローンの借換えでメリットが生じる条件とは?効果と注意点」)をご覧ください。
また、金融機関によっては借換えにかかる諸費用も含めて、借換えできる場合があります。この場合、諸費用の全額を手元資金で準備する必要がないため(※)、手元資金は繰上返済に充てつつ、より有利な条件の住宅ローンへの借換えも併用することで、両方の利息軽減効果を期待することができるでしょう。ただし、諸費用分の負担が増すことになりますので、常に有利とは限りません。
※諸費用込みの住宅ローンの借換えが可能な場合でも、手元資金は不要(0円)とはならないことがありますのでご注意ください。
繰上返済は家計に生まれた余裕資金で無理なく行うのが良いでしょう。家計にある貯蓄を①日常の生活を運営するための日常生活費、②将来の支出に備える使用予定資金、③余裕資金の3種類に分けて考えるとすると、繰上返済に充てやすい資金は③余裕資金となります。ご自身の貯蓄の内訳を、このように分類して考えると、繰上返済を検討する際に判断しやすくなると考えられます。
繰上返済する前には、将来のライフプランで必要となる費用がどれだけ発生するか確認して、無理のない範囲で行うことが大切です。