近年、アーリーリタイア(早期退職)やFIRE(Financial Independence, Retire Early)、といった言葉で知られる新しい生き方が、若い世代に注目され始めています。退職の時期に関係なく「いつまでに」「いくら」を貯めるか目標を設定し、その目標に向けて、今からできることを考え実行することがより大切な時代となったのではないでしょうか。
ただ、リタイアの時期や、そのために貯めるべき金額については個人によって考え方が異なると思われますから、一律に語られるべきものではありません。「〇〇円あればアーリーリタイアできる!」と安易に考えず、ご自身やご家族の将来必要となる費用を計算して(=ライフプランを立てて)、計画的に考えるようにしましょう。
また、実際にアーリーリタイアを目指さなくともこういったライフスタイルがあるということを知っていただき、貯金に対するモチベーションが上がり、貯金額を増やしたり、リタイアメントプランを考えたりする機会にしていただければと思います。
今回は、 アーリーリタイア後に必要な資産やその計算方法、必要金額を貯める方法について 株式会社 家計の総合相談センターの小泉朱希さんに解説いただきました。
人生100年時代といわれるようになり、老後の生活を支える資金を維持するため長く働き続けるための方法を探す人も増えていますが、その一方で、アーリーリタイアに関心が高まっているようです。
アーリーリタイアとは、定年退職を迎える前に退職することです。
仕事に縛られず自由な時間を増やしたい、好きなことをして過ごしたいなどの目的から、アーリーリタイアを目指す方々が増えているようです。早期リタイア(アーリーリタイア)というと、40,50代でのリタイアがイメージされますが、その考えは20,30代にも広がってきているようです。
同じリタイアという言葉がついていますが、アーリーリタイアとは一般的に、リタイア後に仕事を全くしないライフスタイルを指します。また、セミリタイアは、働き方はフリーランスやアルバイトのように自由ですが、で、働き続けるライフスタイルとされます。また金融資産や不動産からの家賃所得などがあれば、こういった生き方を選びやすくなるといえるでしょう。
FIREはFinancial Independence(経済的自立)とRetire Early(早期リタイア)の頭文字をならべたものです。支出を可能な限り抑えて、貯蓄率を上げ、早期に資産形成して定年前に経済的自立を達成し、その資産を運用しながら自由に好きなことをする生き方とされるようです。
FIREでは、「4%ルール」から年間の生活費を25倍した額がFIREの達成目標の一つとされています。「4%ルール」とは、運用している資産額の4%の生活費であれば毎年取り崩しても資産が30年持続する可能性が95%(株式50%・債券50%の配分時)という調査結果に基づいています。
これはトリニティ大学の3人の教授の論文『Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable(1998)』に発表されています。
例えば、年間の生活費を400万円と目標資産額は、400万円×25倍の1億円とされます(1億円の4%の利回りは400万円。生活費をまかなえていることになります。)。
「4%ルール」は米国での過去のデータに基づいた研究結果であり、日本で将来にわたって必ずしも適用できるかどうかはわからないことを頭に入れておきましょう。
出典:『Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable(1998)』
アーリーリタイアするには、どのくらいの金融資産を準備しておけばいいのでしょうか。用意するには、方法や期間、今後のライフプランなど多くの事が影響するため、しっかり考えておく必要があります。
リタイアする年齢については、ご自分の希望を考えてみましょう。先ほどの4%ルールでは、30年の計算をしていましたが、ご自身の場合は何歳までの資金を確保したらいいのでしょうか。すっかり人生100年時代と言われるようになりましたが、データでも確認してみましょう。厚生労働省の「令和元年簡易生命表の概況」(※)によると、男性では4人に1人、女性では2人に1人は90歳まで生きるという統計が参考になります。
アーリーリタイアを可能にするには、どのくらいの資産が必要でしょうか。
40歳でリタイアした場合に必要な金額を計算してみました。計算の方法は、1年間の生活費×リタイア後の年数とし、90歳まで計算します。
計算の前提として、1年間の生活費は家計調査(二人以上の世帯)(※)を参考に、65歳までは360万円(月額30万円)、65歳以降は264万円(月額22万円)として計算しています。ここでは、生活費に非消費支出(税金、社会保険料など)を入れずに試算していますが、リタイア後は社会保険料の支払いが必要となり、税金はご自身の所得などによります。
出典:家計調査報告〔家計収支編〕2020年(令和2年)平均結果の概要
二人以上の世帯のうち勤労者世帯の家計収支 消費支出 約305,811円
65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支 消費支出 約224,390円
40歳~65歳 30万円×12ヵ月×25年=9,000万円
65歳~90歳 22万円×12ヵ月×25年=6,600万円
合計 1億5,600万円
このケースでは、1億5,600万円必要となります。30代でリタイアすれば、その分多くの資金が必要となります。ただし単身世帯であれば生活費は少なくなるでしょう。
先程は、家計調査のデータを参考にしました。では、ご自身の生活費はどのくらい必要でしょうか。毎月の生活費の他に、年に数回の支出、また旅行や医療費・介護費用など、ライフイベントにかかる費用も必要となります。どのような暮らしがしたいのかをリストアップし、必要な資金を計算しておくとよいでしょう。
65歳以降は公的年金の老齢年金を亡くなるまで受け取れます(老齢年金を受け取るには一定の条件があります)が、65歳までは原則、公的年金からの給付はありませんので、金融資産や不動産からの所得を生活費に充てることになります。
また、お勤めの会社によって異なりますが、退職金や企業年金があります。定年退職前に退職すると退職金が優遇される早期優遇退職制度のある会社もあります。
また、アーリーリタイアではなく、セミリタイアとして働き続けることで収入を得る方法もあります。
公的年金の老齢年金は原則として65歳から受け取ることができます。家計調査(65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支)によると平均月額は約22万円(※)です。
月額22万円と仮定すると65歳から90歳までの受け取り総額は6,600万円となります。
65歳~90歳 22万円×12ヵ月×25年=6,600万円
ご自身の年金額については、「ねんきん定期便」、「ねんきんネット」でしっかりと確認しておきましょう。
65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支 社会保障給付219,976円
リタイア後も公的医療保険や公的年金(国民年金)の保険料の支払いが必要になります。老齢年金を受け取る条件は、10年以上の保険料納付済期間がが必要です。 この10年には、厚生年金保険、共済組合等の加入期間を含む国民年金の保険料納付済期間と国民年金の保険料免除期間などを含んだ期間、合算した資格期間が10年以上必要です。
会社を退職した後は国民年金にのみ加入します。アーリーリタイアするデメリットとして、定年まで勤めた人と比べて厚生年金の年金額が少なくなることが挙げられます。
何歳まで生きることができるのかはわかりませんが、公的年金は亡くなるまでずっと受け取れるというメリットがあります。
出典:家計調査報告〔家計収支編〕2020年(令和2年)平均結果の概要
アーリーリタイアするためのお金を早期に用意するのは多くの方には難しいと考えられます。
40歳時にセミリタイアを実現し、金融資産が4,500万円あるケースで試算しました。生活費が月30万円の場合、15万円を金融資産から取り崩し、15万円は働いて収入を得ると考えます。180万円(=15万円×12ヵ月)の25倍は4,500万円となります。そこで、FIREを意識し、運用による収益を見込んでみましょう。40歳から毎月15万円を取り崩して生活費に充てる場合、運用利回りが0%では、64歳11ヵ月(※1)で資金がなくなってしまいます。3%で運用できると、86歳3ヵ月(※2)まで資産が底をつきません。運用することで、資産寿命を延ばすことができます。
また、金融資産を運用しながら取り崩す場合は、市場が下落している局面で売却すると損失がでてしまいますので、取り崩し方法は検討する必要があります。
※株式、投資信託等が値上がりした後に売却した場合、値上がりによる利益(譲渡益)に対して、また配当金などを受け取った場合は、20.315%の税金がかかりますが、このシミュレーションでは考慮していません。
アーリーリタイアやFIREのための必要資産をどのように準備したらよいでしょうか。起業して大きな資産を築く、親から相続で財産を引き継ぐといったことや、不動産からの家賃収入、金融資産の運用など多彩な方法が考えられます。ここでは、投資初心者をはじめ幅広い年代の方にとって利用しやすい方法をご紹介します。
例えば、40歳時に4,500万円のお金を貯めるには毎月いくら積立を行えばいいでしょうか。23歳から40歳の17年間で積み立てをすると仮定すると、毎月22万600円の積み立てが必要になります。3%で運用しながら積み立てることができれば、毎月16万8,900円の積み立てで目標金額を準備できます。
目標金額 | 初期投資 | 期間 | 利回り | 毎月の積立額 |
---|---|---|---|---|
4,500万円 | 0万円 | 17 年 | 0% | 220,600円 |
4,500万円 | 0万円 | 17 年 | 3% | 168,900円 |
出典:モーニングスター 金融電卓(運用‐積立金額)のシミュレーション結果
毎月の積立金額を増やし、運用することで早期に金融資産を築くことにつながります。ライフプランを立て、目標の貯金額、毎月の積立金額を決めましょう。
株式、債券は経済動向などにより日々価格が変動するため、投資には元本割れのリスクがあります。そのようなリスクと上手につきあっていくためには長期・積立・分散投資といった方法があります。国内債券、外国債券、国内株式、外国株式に分散して運用する投資信託で、市場平均と連動を目指して運用されているインデックスファンドは運用コスト(信託報酬など)も低く初心者に適した投資信託といわれていますが、ご自身にあった運用商品を選択することが大切です。また、iDeCoやつみたてNISAなどの税制優遇制度を利用することで効率的な資産形成ができます。
コロナウィルスにより暮らしが変化しています。アーリーリタイアも含めた多様なライフプランを考えてみることで、さまざまなことを見つめ直し、皆さまの生活がより充実したものとなるきっかけになりましたら幸いです。