人生100年時代といわれるようになり、老後の生活を支える資金を維持するため長く働き続けるための方法を探す人も増えていますが、その一方で、「アーリーリタイア」や「FIRE」といった言葉で知られる新しい生き方が、若い世代に注目されています。退職の時期に関係なく「いつまでに」「いくら」を貯めるか目標を設定し、その目標に向けて、今からできることを考え実行することがより大切な時代となったのではないでしょうか。
ただ、リタイアの時期や、そのために貯めるべき金額については個人によって考え方が異なります。「〇〇円あればアーリーリタイアできる!」と安易に考えず、ご自身やご家族の将来必要となる費用を計算し、しっかりとライフプランを立てて計画的に考えるようにしましょう。
アーリーリタイアとは、定年退職を迎える前に早めに退職することです。
仕事に縛られず自由な時間を増やしたい、好きなことをして過ごしたいなどの目的から、アーリーリタイアを目指す方々が増えているようです。一般的な定年は60歳か65歳のため、早期退職というと40~50代でのリタイアがイメージされますが、その考えは20~30代の若い世代にも広がってきています。
同じリタイアという言葉がついていますが、アーリーリタイアとは一般的に、リタイア後に仕事を全くしないライフスタイルを指します。一方で、セミリタイアとはフリーランスやアルバイトなど仕事量を減らした上で働き続けるライフスタイルです。金融資産や不動産からの家賃所得などがあれば、こういった生き方を選びやすくなるでしょう。
FIREは「Financial Independence(経済的自立)」と「Retire Early(早期リタイア)」の頭文字をならべたものです。支出を可能な限り抑えて、貯蓄率を上げ、早期に資産形成して定年前に経済的自立を達成し、その資産を運用しながら自由に生活するという考え方です。
| アーリーリタイア | セミリタイア | FIRE | |
|---|---|---|---|
| リタイア後の仕事 | 全くしない | 仕事量を減らして働き続ける(フリーランスやアルバイトなど) | ほぼしない |
| 資産運用での所得 | なし | あり | あり(メインの収入源) |
FIREでは、「4%ルール」から年間の生活費を25倍した額が資産目標の目安とされています。これはトリニティ大学の3人の教授の論文『Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable(1998)』に発表されていて、「4%ルール」は運用している資産額の4%の生活費であれば毎年取り崩しても資産が30年持続する可能性が95%(株式50%・債券50%の配分時)という調査結果に基づいています。
例えば、年間の生活費が400万円であれば、目標資産額は400万円×25倍の1億円です。1億円の4%の利回りは400万円なので、生活費をまかなえていることになります。
「4%ルール」は米国での過去のデータに基づいた研究結果であり、日本で将来にわたって必ずしも適用できるかどうかはわからないことを頭に入れておきましょう。
【出典】『Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable(1998)』
アーリーリタイアに憧れを抱くかたは多いと思いますが、そのためには将来の資金計画を十分に考慮することが大切です。メリットだけでなく、デメリットもしっかりと理解したうえでアーリーリタイアを検討しましょう。
●自由な時間が増える
仕事をしていた時間がなくなるため、時間に余裕が生まれます。趣味を楽しんだり、家族との時間を充実させたり、新たなチャレンジを始めることもできます。
●仕事のストレスやプレッシャーから解放される
日々の業務のストレスやプレッシャーから解放されるだけでなく、人間関係の悩みなどもなくなります。毎日出社していた場合は、満員電車などの通勤ストレスもなくなり、往復の通勤に充てていた時間も自由に使えるようになります。
●社会的つながりが減る
趣味のつながりや仕事とは別のコミュニティがある場合は別ですが、仕事で関わる人がいなくなると家族や友人たちとしか関わる機会がなくなります。一人で静かに過ごしたいかたはよいですが、自分から積極的に人と関わりにいかなければ新たな出会いやつながりを得る機会が減ってしまうでしょう。
●社会的信用を得るのが難しくなる
アーリーリタイアで退職するということは、無職になるということです。無職になると社会的信用が低くなってしまうため家を借りる際に保証人が必要になったり、住宅ローンや車のローンなど高額なローンの審査に通らなくなったりすることがあります。
アーリーリタイアは、単なる金銭的な目標ではなく、ライフスタイル全体を変える大きな決断です。どのくらいの金融資産を準備しておけばよいのか、用意する方法や期間、今後のライフプランなどしっかり考えておく必要があります。
過去1年間の支出を洗い出し、年間の生活費を正確に把握しましょう。アーリーリタイアすると安定的な収入はありません。これまでは何となく使っていたクレジットカードや電子決済の明細を確認すると、必要のない支出が多くあるかもしれません。まずは自分がどのくらいの金額で生活しているのかを把握し、不要な支出を抑えながら資産を守る必要があります。
アーリーリタイアを可能にするには、どのくらいの資産が必要でしょうか。
40歳でリタイアした場合に必要な金額を計算してみました。計算の方法は、1年間の生活費×リタイア後の年数とし、90歳まで計算します。
計算の前提として、1年間の生活費は家計調査(二人以上の世帯)(※)を参考に、65歳までは384万円(月額32万円)、65歳以降は300万円(月額25万円)として計算しています。ここでは、生活費に非消費支出(税金、社会保険料など)を入れずに試算していますが、リタイア後は社会保険料の支払いが必要となり、税金はご自身の所得などによります。
出典:家計調査報告〔家計収支編〕2024年(令和6年)平均結果の概要
二人以上の世帯のうち勤労者世帯の家計収支:消費支出 約325,137円
65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支:消費支出 約256,521円
40歳~65歳:32万円×12ヵ月×25年=9,600万円
65歳~90歳:25万円×12ヵ月×25年=7,500万円
合計:1億7,100万円
このケースでは、1億7,100万円必要となります。30代でリタイアすれば、その分多くの資金が必要となります。ただし単身世帯であれば生活費は少なくなるでしょう。
先ほど現在の支出は確認しましたが、ではアーリーリタイア後の生活費はどのくらい必要でしょうか。毎月の生活費の他に、年に数回の支出、また旅行や医療費・介護費用など、ライフイベントにかかる費用も必要となります。どのような暮らしがしたいのかをリストアップし、必要な資金を計算しておくとよいでしょう。
また、リタイア後も公的医療保険や公的年金(国民年金)の保険料の支払いが必要になります。会社を退職した後は国民年金にのみ加入します。なお、アーリーリタイアした場合、定年まで勤めた人と比べて厚生年金の年金額が少なくなりますが、公的年金は亡くなるまでずっと受け取れます。
65歳以降は公的年金の老齢年金を亡くなるまで受け取れます(老齢年金を受け取るには一定の条件があります)が、65歳までは原則、公的年金からの給付はありませんので、金融資産や不動産からの所得等を生活費に充てることになります。ご自身の年金額については、「ねんきん定期便」、「ねんきんネット」でしっかりと確認しておきましょう。
また、お勤めの会社によって異なりますが、退職金や企業年金があります。定年退職前に退職すると退職金が優遇される早期優遇退職制度のある会社もあります。
また、アーリーリタイアではなく、セミリタイアとして働き続けることで収入を得る方法もあります。
アーリーリタイアやFIREのための必要資産をどのように準備したらよいでしょうか。起業して大きな資産を築く、親から相続で財産を引き継ぐといったことや、不動産からの家賃収入、金融資産の運用など多彩な方法が考えられます。ここでは、投資初心者をはじめ幅広い年代の方にとって利用しやすい方法をご紹介します。
例えば、40歳時に4,500万円のお金を貯めるには毎月いくら積立を行えばいいでしょうか。23歳から40歳の17年間で積み立てをすると仮定すると、毎月22万1,000円の積み立てが必要になります。3%で運用しながら積み立てることができれば、毎月16万9,000円の積み立てで目標金額を準備できます。
| 目標金額 | 初期投資 | 期間 | 利回り | 毎月の積立額 |
|---|---|---|---|---|
| 4,500万円 | 0万円 | 17年 | 0% | 221,000円 |
| 4,500万円 | 0万円 | 17年 | 3% | 169,000円 |
毎月の積立金額を増やし、運用することで早期に金融資産を築くことにつながります。ライフプランを立て、目標の貯金額、毎月の積立金額を決めましょう。
株式、債券は経済動向などにより日々価格が変動するため、投資には元本割れのリスクがあります。そのようなリスクと上手につきあっていくためには長期・積立・分散投資といった方法があります。国内債券、外国債券、国内株式、外国株式に分散して運用する投資信託で、市場平均と連動を目指して運用されているインデックスファンドは運用コスト(信託報酬など)も低く初心者に適した投資信託といわれていますが、ご自身にあった運用商品を選択することが大切です。また、iDeCoやNISAなどの税制優遇制度を利用することで効率的な資産形成ができます。
まずはご自身の年間支出を計算することから始めましょう。正確な年間支出がわかれば、目標額と必要な貯蓄率が明確になり、アーリーリタイアへのロードマップが具体化します。
また、実際にアーリーリタイアを目指さなくともこういったライフスタイルがあるということを知っていただき、貯金に対するモチベーションが上がったり、貯金額を増やしたり、リタイアメントプランを考えたりする機会にしていただければと思います。