子供が入院したとき、気になることの1つが入院費用です。初めて子供の入院を経験する人は「子供の入院費は何割負担?」「地方自治体から助成内容は?」など、疑問を持つ人もいるでしょう。
今回の記事では、子供が入院したときの費用について西岡社会保険労務士事務所の西岡代表に解説して頂きます。子育て家庭を支援する医療費助成制度も紹介しますので、いざというときに備えて基本的なことは覚えておきましょう。
最初に、子供の入院状況と入院費の負担割合について見ていきましょう。負担割合とは、入院費用から健康保険による負担分を差し引いた自己負担の割合です。
厚生労働省の調査によると、年齢別に人口10万人に対する子供の受診率(入院・外来)を見ると、4歳までの乳幼児の割合が高くなっています。
(年齢別の受診率・10万人当たり人数)
年齢 | 入院 | 通院 |
0歳 | 1,167名 | 7,276名 |
1歳~4歳 | 169名 | 6,517名 |
5歳~9歳 | 86名 | 4,377名 |
10歳~14歳 | 94名 | 2,764名 |
15歳~19歳 | 113名 | 1,923名 |
20歳~24歳 | 158名 | 2,108名 |
特に、0歳児の人口当りの入院数はほかの年齢の10倍前後と、受診率の高さが目立ちます。入院の原因は、妊娠や分娩の合併症による影響や、急性気管支炎などの呼吸器系疾患、染色体異常などです。
また、近年はRSウイルス(風邪の原因となるウイルスの1つ)による乳幼児の入院が増加して話題になっています。
健康保険加入者の医療費の自己負担割合は次の通りです。
(医療費の自己負担割合)
年齢 | 自己負担 |
6歳まで(義務教育就学前) | 医療費の2割 |
6歳~69歳 | 医療費の3割 |
70歳~74歳 | 医療費の2割~3割 |
75歳以上 | 医療費の1割~3割 |
子供の入院費の自己負担割合も上記と同様です。6歳まで(義務教育就学前)の子供が入院したときの自己負担は医療費の2割で多少負担が少なくなりますが、6歳以上の子供は大人と同じ3割です。
医療費にはさまざまな助成制度があります。医療費が高額になった場合の助成や子育て家庭を支援するための助成などです。
高額療養費制度とは、高額な医療費を支払って月の自己負担が一定の限度額を超えた場合、超過部分の払い戻しが行われる健康保険の助成制度です。一定の限度額のことを自己負担限度額といい、収入に応じて次の通りです。
(高額療養費の自己負担限度額)
所得区分 | 自己負担限度額(1か月) |
年収約1,160万円以上 | 25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1% |
年収約770~約1,160万円 | 16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1% |
年収約370~約770万円 | 8万100円+(医療費-26万7,000円)×1% |
年収約370万円以下 | 5万7,600円 |
住民税の非課税者等 | 3万5,400円 |
※医療費は自己負担額ではなく健康保険適用前の医療費総額(10割)
※70歳以上の自己負担限度額は上記と異なる
参考:厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)
たとえば、親の年収500万円、10歳の子供の医療費総額80万円の場合、健康保険の3割負担額は24万円ですが、高額療養費制度により自己負担は8万5,430円(=8万100円+(80万円-26万7,000)×1%)で済みます。
また、自己負担限度額を超える月が4回以上あれば、「多数回該当」として4回目以降の限度額が年収に応じて更に引き下げられる仕組み(例:年収500万円なら4万4,400円)もあり、子供の医療費を一定範囲内に抑えられます。
乳幼児医療費助成制度は、全国の地方自治体による医療費の助成です。各都道府県が要綱等に作成し、各市区町村が要項も基に具体的な助成内容を決めるため、地方自治体によって内容は異なります。
子育て家庭の支援を目的とした制度ですが、いざという時に躊躇なく医療機関等にかかれるように一定年齢までの子供については医療費を無償にするなどして子どもの命を守る仕組みでもあります。
助成を受けるには、助成制度に加入する手続きが必要です。市役所や区役所などに交付申請書(健康保険証やマイナンバーカードなども必要)を提出して「受給者証」を交付してもらいます。病院で受診したときに、窓口で受給者証を提示すれば助成を受けられます。
地方自治体による助成内容の主な違いは、「対象となる子供の年齢」「自己負担の有無」「親の所得制限の有無」などです。厚生労働省の調査によると、各市区町村の子供の入院に対する医療費助成状況(平成31年4月1日時点)は次の通りです。
参考:厚生労働省 令和元年度「乳幼児等医療費に対する援助の実施状況」
各市区町村の乳幼児医療費助成の対象は、大半が中学校卒業または高校卒業までです。上記の厚生労働省の調査対象とされた1,741市区町村の状況は次の通りです。
乳幼児医療費助成制度によって入院費用が無償になるケースも多いですが、一部自己負担のある市区町村もあります。各市区町村の約7割は自己負担がありません。
一部の市区町村では、親の収入が一定額以上の場合、乳幼児医療費助成の不支給または減額を行う所得制限があります。ただし、所得制限をしない市区町村が大半です。
高額療養費制度や乳幼児医療費助成制度のほかにも、子供の入院などに対する助成制度があります。ひとり親家庭の子供(親も対象になることもある)や所定の疾病を抱えた子供を対象とした助成制度などです。
地方自治体が独自で設けた助成制度であるため、助成の有無や制度名称、助成内容は各地方自治体のHPなどで確認しましょう。たとえば、次のような制度があります。
参考:東京都福祉保健局「小児慢性特定疾病医療費助成制度の概要」
乳幼児医療費助成制度などにより子供が入院したときの負担は大幅に軽減されますが、助成の対象にならない費用もあります。助成対象外の費用についてみていきましょう。
入院時に個室(主に1~4人部屋)を利用した場合、差額ベッド代(正式には「特別療養環境室料」)がかかります。保険診療適用外の費用になるため、全額が自己負担となります。個室を希望しない場合でも、大部屋がなくて利用せざるを得ないケースもあります。
「第466回中央社会保険医療協議会・主な選定療養に係る報告状況」によると、差額ベッド代の1日当たりの平均金額は6,354円(令和元年7月1日現在)、1人部屋の平均は8,018円です。
差額ベッド代は病院によって大きく異なり、1日当たり数万円かかることもあります。また、入院が長期になった場合は大きな負担となります。
小さな子供が入院した場合、保護者が泊まり込んで付き添わなければならないこともあります。付添人のベッド代も健康保険は適用されないため、全額自己負担となります。
入院中の食事代は、健康保険から支給される「入院時食事療養費」と入院患者が支払う「標準負担額」で賄われます。標準負担額が自己負担する金額で、1食当たり460円(収入などにより減額あり)と決まっています。
1日3食で1,380円ですが、入院が長期化すると一定の負担です。
子供が入院したときには、健康保険の自己負担割合が適用されるだけでなく、国や地方自治体ではさまざまな助成制度を設けています。高額療養費制度、各地方自治体の乳幼児医療費助成制度などを活用すると入院費用を大幅に削減できます。
特に、乳幼児医療費助成を使えば入院費用がほとんどかからないケースもあります。ただし、助成内容は各地方自治体によって異なるため、居住地の自治体HPなどで確認して有効活用しましょう。一般的に申請しないと助成を受けられないことも覚えておきましょう。