子供にかかるお金は、人生の3大資金の1つとされているほど大きな支出となります。子供にはさまざまな費用がかかりますが、中でも学費は避けることができません。
負担は大きくとも親の気持ちとしても安易に節約したいとは思わないはずですし、家計の状況や本人の希望や将来性を考慮すると金融機関等の教育ローンや奨学金制度の利用も検討することもあるでしょう。
進路は無数にあり変化していくものですが、最低限の情報として大学卒業までの学費の平均を把握し、貯める金額や方法などの方針を決めていきましょう。
今回は、子供が大学卒業までにかかる平均の費用と将来に備えて学費を貯める方法について、社会保険労務士の川部紀子さんにご説明いただきます。
「学費」という言葉はよく聞きますが、意外と漠然としていると思いませんか? まず学費にはどんなものが含まれるのかを確認していきましょう。
「学費」とは、教育資金や学生生活のすべての費用と広く解釈することも、学校への納入金のみと解釈することもできますよね。文部科学省では「学習費」として広くとらえ、様々な調査を行っています。
また、似た言葉に「教育費」がありますが、こちらも、一般に学費よりも広い意味で使われることが多いようです。
平均額などの統計データを参考にする際には、どこまでを指しているのか注意する必要があります。
文部科学省が平成6年から隔年で実施している「子供の学習費調査」でいうところの「学習費」とは、幼稚園(公立・私立)、小学校、中学校、全日制の高等学校に子供を通学させている保護者が、学校教育及び学校外活動のために支出した1年間の経費としています。
この調査による学習費の具体的な項目と、どんなものが含まれるのかは次の通りです。
「授業料」「修学旅行・遠足・見学費」「学級・児童会・生徒会費」「PTA会費」「教科書費・教科書以外 の図書費」「学用品・実験実習材料費」」「通学費」など
出典:文部科学省「令和3年度子供の学習費調査の手引き(保護者用)」
こうしたお金の支払かたを様々な方法から選択できれば、例えば分割払いやボーナス払いを活用してタイミングの調整で切り抜けるという方法も可能となるかもしれません。ただ現状では入学金や授業料の支払いの多様化が進んでいるとは言えないようです。入学金や授業料の支払い時期はあらかじめ決まっているので、事前に計画を立て、十分な額を用意するようにしましょう。
では、文部科学省平成30度「子供の学習費調査」より「保護者が支出した1年間・子供一人当たりの学習費総額」を確認していきましょう。
【公立・私立別教育資金の総額】
国公立費用 | 私立費用 | |
幼稚園3年間 | 約67万円 | 約158万円 |
小学校6年間 | 約193万円 | 約959万円 |
中学校3年間 | 約147万円 | 約291万円 |
高校3年間 | 約137万円 | 約291万円 |
大学4年間 | 約242万円 | 約389万円 |
合計 | 約786万円 | 約2,220万円 |
出典:日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果(令和2年度)」より試算
公立か私立か、大学はどの学部に進学するのかにより費用は大きく変わりますが、データからみると最低でも約700~800万円という感覚は持っておく必要があるでしょう。
令和元年より幼児教育・保育の無償化、令和2年より高等教育の無償化がスタートしましたので概要を確認していきましょう。
幼児教育・保育の無償化の対象施設は次の通りです。
ただし、原則として通園送迎費、食材料費、行事費等の負担は発生します。
※年収360万円未満相当世帯の子供たちとすべての世帯の第3子以降の子供たちについては、副食(おかず・おやつ等)の費用が免除されます。
対象となる子供は、原則通りの3歳から5歳児クラスだけでなく、住民税非課税世帯は0歳から~2歳児クラスも無償となる施設もあります。
手続きですが、子ども・子育て支援新制度の対象幼稚園、認可保育所、認定こども園、地域型保育の場合、無償化のための手続きはありません。保育認定を受け、各施設の手続きをすることで、市区町村から施設に対して直接利用費が支払われます。
認可外保育施設等の場合、保育認定を受けた上で保護者側がいったん利用費を払う必要があり、後で市区町村に請求する手続きが必要です。施設と市区町村に確認し進めましょう。
住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯の学生を対象に、大学、短大、高等専門学校(3、4年生)、専門学校の授業料・入学金が免除または減額となる制度です。
例えば、昼間制大学の場合、国公立で入学金28万円、授業料54万円まで、私立で入学金26万円、授業料70万円が減免の年間上限となっています。
給付型奨学金も拡充されています。最大給付年額は、私立の大学・短期大学・専門学校の場合で、自宅から通学している学生は46万円、一人暮らしなどで自宅外から通学している学生は91万円となっています。
無償化や奨学金の拡充もありますが、やはり自身で準備することも必要です。その方法にはどのようなものがあるのかを確認していきましょう。
子供のための口座を分けておくのが得策です。金利が低いこともあり、単に普通預金の口座にお金を移して貯めている方も多いようですが、会社員であれば給与天引きで積み立てできる仕組みの活用も検討しましょう。特に大学入学時には大きなお金がかかるため、その時までの目標金額を決め、年数、月数で割り算をして、確実に積み立てていくことをおすすめします。その方法として、会社員であれば財形貯蓄、積立貯蓄などの活用が考えられます。
預貯金に余力があるなら、積み立て可能な資産運用を加えて増やすことを意識するのもよいでしょう。
ただし、短期的に増えたか減ったかに振り回されるような投資ではなく、つみたてNISAなどの仕組みを活用し、長期投資を前提とした投資信託を取り入れる方法です。結果的に子供の独立までの費用を預貯金でカバーできたのであれば、自身の老後のお金に回してもいいですね。
学資保険については、貯蓄の要素と保険の要素の両方が含まれています。いくら支払って、いくらが戻ってくるのか、という貯蓄としての効果を確認しましょう。
祖父母からの贈与による支援はどうでしょう? 日本の金融資産の多くは高齢者の元にあると言われています。もし資産に余裕があるのならば、孫のために考えてくれる可能性は大いにあります。
今回は学費についてのデータや無償化などの情報をお伝えしました。
大きなお金がかかるのは否定できませんが、各種支援制度も拡充してきていますし、何とか乗り切って子育てをしてほしいと願っています。
そのためには、何より行動、実践が重要です。目標を立てる、貯める方法を決める際の参考にしていただければと思います。
FP・社労士事務所 川部商店 代表
大手生命保険会社で勤務した後にFP事務所を開業。現在はファイナンシャルプランナー、社会保険労務士として相談業務はもとより、講演・セミナー講師、大学の非常勤講師、各種執筆、テレビ・ラジオ出演、YouTubeでの動画配信などを通じて身近なお金に関する気付きを提供するさまざまな活動も行っている。
近著に『得する会社員 損する会社員』(中央公論新社)がある。
【保有資格】社会保険労務士/CFP®