人生100年時代といわれる昨今、皆さんは「健康寿命」という言葉を耳にしたことがありますか? 健康寿命はWHO(世界保健機関)が「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定めており、2016年のデータでは男性が72.14歳、女性が74.79歳で、言い換えるとその年齢以降は「健康上の理由で日常生活が制限される=介護を必要とする可能性が高まる」と言えます。
今回は、国から受けられる「公的介護保険制度」の仕組みを解説するとともに、上乗せの対策として選択肢の一つになり得る、生命保険会社など民間の「介護保険」の特徴をご紹介します。
はじめに、冒頭でもご紹介した健康寿命を平均寿命と比較してみましょう。2016年のデータでは、男性の平均寿命は80.89歳、それに対して健康寿命が72.14歳ですから、その差は8.84年です。女性の場合は平均寿命が87.14歳、健康寿命が74.79歳、その差は12.35年です。(※)
(※)出典:厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」(平成30年3月)
グラフ:(※)に基づき、SBIマネープラザが作成
つまり男性はおよそ8.8年、女性はおよそ12.4年「健康上の理由で日常生活が制限される=介護を必要とする可能性が高まる」と言えます。今後、さらに平均寿命が延びていけば、平均寿命と健康寿命の差も比例して延びる可能性があります。
また平均の介護年数は、54.5ヶ月(4年7ヶ月)で、4年以上のかたは全体の4割を占めます。費用については、一時費用の平均が69万円(住宅のバリアフリー対応、介護用ベッドの購入など)、月額費用の平均が7.8万円というデータがあります。(※)もちろんどういった介護サービスを受けるかによっても金額は大きく異なりますが、介護期間が長期化すればその費用もかさむことが想定されます。
(※)出典:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/平成30年度
それでは、実際に介護を必要としている人(要介護・要支援認定者)はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。2017年度は約641万人で、2000年に比べると認定者の数は2.5倍に増えており、年々増加傾向にあると言えます。そのうちおよそ86%を75歳以上の高齢者が占めています。(※)こういった介護を必要とする高齢者の増加や核家族化を背景に、2000年に創設されたのが「公的介護保険制度」です。40歳を超えると介護保険料の支払い義務が生じ、かつ万が一介護状態になった場合には介護サービスを受けられるようになります。
(※)出典:厚生労働省「平成29年度 介護保険事業状況報告(年報)」
公的介護保険は、介護サービスの自己負担が1割(現役並みの所得がある場合には2割か3割。年収や配偶者の有無により異なる)となる制度です。自宅で利用する訪問介護や訪問看護をはじめ、日帰りで施設を利用するデイサービスやデイケア、特別養護老人ホームでの介護や特定施設入居者生活介護などのサービスが保障の対象です。公的介護保険制度の保障の対象となるかた(被保険者)は以下の2つに分類されます。
1)第1号被保険者
対象:65歳以上
受給要件:要介護状態、要支援状態
保険料の支払い方法:原則公的年金から天引き
保険料:自治体により異なる(東京都港区の場合、介護保険料基準額は月額6,245円。それを基準に所得に応じて15段階に保険料が分けられている)。
2)第2号被保険者
対象:40〜64歳の公的医療保険(国民健康保険、協会けんぽなど)加入者
受給要件:要介護(要支援)の状態が加齢に起因する疾病(特定疾病)による場合
保険料の支払い方法:公的医療保険と一緒に徴収
保険料:公的健康保険により異なる(協会けんぽの介護保険料率は1.79%、令和2年3月分から)
65歳以上の場合(第1号被保険者)は、その原因を問わず介護状態と認定されれば介護サービスを受けられますが、40〜64歳の場合(第2号被保険者)は介護状態となる原因の疾病が限定されており、がん(末期)、関節リウマチ、脳血管疾患、パーキンソン病など16の疾病が対象です。
介護サービスを受けるには、現在どの程度介護を必要としているかを市区町村の認定調査員が調査・判定します。要介護度は、要介護1〜5、または要支援1、2のいずれかとなり、この認定区分により受けられる介護サービスの一ヶ月あたりの上限額が定められており、それを超える金額は全額自己負担となります。
生命保険会社の「介護保険」は、公的介護保険の上乗せとしての備えを検討する場合、選択肢の一つとなるものです。大きく2つのタイプがあると考えると良いでしょう。
一般的な死亡保険は死亡時および高度障害状態になった場合に、医療保険は入院や手術の場合に保険金が支給されますが、介護状態となった場合にも保険金の支払いの対象となる介護の特約(オプション)を付加することにより、介護への備えが可能な商品があります。
また、余命宣告を受けた場合に保険金を前払いで支払われる特約や、保険料の払い込みが免除になる特約など、介護状態の場合に頼りになる特約が準備されているケースもあります。死亡や医療などに備えながら、プラスアルファで介護への備えができるのがメリットです
介護の保障に絞ったタイプで、掛け捨てタイプと積み立てタイプの二つに大きく分類されます。このほか保険料の支払い方(一括、分割)や、保険金の受け取り方法(一時金、年金)など様々な選択肢があり、そのほかの資産とのバランスや、どの程度上乗せの保障を重視するかによって、自分に合うものが選択できると良いでしょう。
今回は、公的介護保険とその上乗せとなる生命保険会社の介護保険をご紹介しました。今はまだ遠い未来のことと感じていても、年齢を重ねた先に訪れる「介護」。金銭的な面だけでなく、住まいや家族との関わりにも影響があるはずです。この機会に改めて「介護」についてご家族で話し合えると良いでしょう。