フラット35のデメリットとは? メリットと併せて知っておきたい点

独立行政法人住宅金融支援機構の調べによると、2018年4月1日から2019年3月29日までの期間で借換えに係るものを除き、独立行政法人住宅金融支援機構に承認されたフラット35の件数は77,680件となりました(集計可能なもの)。フラット35は全国の金融機関で取扱われており、検討したことのあるかたも多いかもしれません。

今回は、フラット35のメリットとあわせて知っておきたいデメリットについて、銀行員として20年勤務した後、現在は住宅ローンアドバイザーとして活躍される、愛媛住宅ローン相談プラザ代表の片上さんに解説いただきました。

フラット35のデメリットを確認されたいかたは、「2-3.フラット35のデメリット」からご覧ください。

1.フラット35の基礎知識


まずは、フラット35がどのような商品で、利用するための条件にはどのようなものがあるのか、ご紹介していきましょう。

1-1.フラット35とは

フラット35は、独立行政法人住宅金融支援機構と全国300以上(2020年7月現在)の民間金融機関が提携して取扱う住宅ローンです。

フラット35の「フラット」は、借入時の金利が借入期間を通して変動しない、金利がフラット(平ら)ということと、マンションのことを英語で「フラット」と呼ぶことがあることをかけているとされています。また、フラット35の「35」は返済期間が最長35年となるという意味です。

フラット35は、民間の金融機関が利用者に資金を貸し出し、住宅金融支援機構がその貸出債権を買取る仕組み(買取型)と、民間の金融機関が利用者に資金を貸し出し、住宅金融支援機構がその貸出債権を保証する仕組み(保証型)の2種類があります。

1-2.フラット35の主な利用条件

1-2-1.申込者についての条件

申込時の年齢は70歳未満(親子リレー返済の場合は70歳以上も可)で、日本国籍のかた、永住許可のあるかた、または特別永住者のかたが利用できます。年収に対するフラット35及びその他の借入れ(自動車ローンなど)を含む、すべての借入れの年間返済額(「総返済負担率」という)が下記の基準であることが求められます。

年収400万円未満:30%以下
年収400万円以上:35%以下

また、家族の収入を合算して計算することが可能です。合算対象となるのは、親、子、配偶者などの申込み本人と同居するかたで、申込時の年齢が満70歳未満であり、連帯債務者になることができるかた1名までとされています。

1-2-2.資金使途についての条件

申込者が所有し、本人または親族が居住するための新築住宅の建設・購入資金または中古住宅の購入資金であることが必要です(共有も可)。セカンドハウスでも利用が可能ですが、賃貸用物件や投資用物件の購入には利用できません。定められた資金使途以外に利用した場合は、住宅金融支援機構から一括返済を要求されることとなります。

1-2-3.住宅についての条件

対象となる物件は、住宅金融支援機構が定める技術水準を満たす住宅です。また、床面積が一戸建て、連続建て、重ね建ての場合で70㎡以上、マンションなどの共同建ての場合で専有面積が30㎡以上の物件を対象としています。敷地の面積に関する要件はありません。

1-2-4.借入金額についての条件

借入金額は、100万円以上8,000万円以下(1万円単位)で、住宅の建築費と土地購入費(※)の合計以内、または住宅の購入金額以内です。ただし住宅兼店舗の場合、非居住部分である店舗分の建築費や購入金額は借入れできませんし、土地購入費のみの借入れもできません。

融資手数料や印紙代、登記費用や火災保険料等の諸費用は、住宅の建築費または購入金額に含められる場合があります。

※土地の購入日がフラット35の申込日の前々年度の4月1日以降あることが条件となります。

1-2-5.借入期間についての条件

借入期間については、最短は15年以上(申込者または連帯債務者が60歳以上の場合は10年以上)で、上限については下記の①か②のいずれか短い期間(1年単位)となります。

① 80歳-申込者(※)の申込時の年齢(1歳未満切上げ)
② 35年

※ 親子リレー返済の場合は後継者を申込者として計算します。また、年収の50%超を合算する収入合算者がいる場合は、申込本人または収入合算者のいずれか年齢の高いかたを基準とします。

2.フラット35のメリット・デメリット


続いて、フラット35以外の民間金融機関の取扱う住宅ローンを「民間ローン」として、違いを見たうえで、フラット35のメリットとデメリットを説明しましょう。

2-1.民間ローンとフラット35の違い

民間ローン フラット35
取扱主体 銀行などの民間金融機関 住宅金融支援機構と民間金融機関の連携
金利タイプ 固定金利型、変動金利型など様々 全期間固定金利型
融資手数料型or保証料型(※) 融資手数料型、保証料型など様々 融資手数料型
団体信用生命保険 一般的には加入が必須 加入は任意
ただし、加入しない場合には亡くなった際などに相続人に住宅ローンの債務が残るので注意が必要
審査基準 金融機関による 申込本人の審査に加え、独自の住宅の技術基準あり
保証人 金融機関による 不要

※ 融資手数料型と保証料型に分類する考え方については、こちらの記事(融資手数料型の住宅ローンのメリット・デメリット│保証料型との違い)をご覧ください。

上記の通り、民間ローンについては金融機関によって、金利タイプ、融資手数料や保証料など千差万別の商品設計となっています。フラット35の商品上の仕組みについては、金融機関によって大きな差はありませんが、金利や手数料などの諸費用は金融機関ごとで異なります。

2-2.フラット35のメリット

① 借入時点の金利で固定される
② 保証料が不要
③ 所得に関する制限が明確
④ 選べる団体信用生命保険

2-2-1.メリット① 借入時点の金利で固定される

フラット35は、借入時点の金利が固定されて返済金額が確定します。そのため、変動金利型のように返済期間中に金利が変動して返済金額が変わるものに比べ、返済計画が立てやすいのがメリットです。また、耐震性能や断熱性能等が「フラット35S」の基準をクリアする物件を購入する場合は、借入当初5年または10年の借入金利が引き下げられます。

2-2-2.メリット② 保証料が不要

保証料は不要で、民間ローンの固定金利期間選択型のような固定金利期間継続時の事務手数料や、繰上返済時の手数料等のような返済期間中の諸費用もありません。

2-2-3.メリット③ 所得に関する制限が明確

フラット35を利用する場合、最低所得金額に関する制限がないので、所得に対する返済負担割合等の条件を満たせば、所得金額に関係なく申込みが可能です。また、給与所得者のみではなく、個人事業主や年金生活者も借入れの対象者となります。

2-2-4.メリット④ 選べる団体信用生命保険

フラット35に付帯できる団体信用生命保険(以下、「団信」)には、死亡や所定の身体障害に備える「新機構団信」に加え、3大疾病にも備えられる「3大疾病付機構団信」、連帯債務者となる配偶者も保障の対象となる「夫婦連生団信」のラインナップがあります。

団体信用生命保険 保障内容 フラット35の借入金利
新機構団信 死亡・所定の身体障害 新機構団信付きのフラット35の借入金利
新3大疾病付機構団信 死亡・所定の身体障害
がん・急性心筋梗塞・脳卒中を発病しそれぞれ住宅金融支援機構が定める基準の状態
公的介護保険制度が定める要介護2~5の状態
新機構団信付きのフラット35の借入金利+0.24%
夫婦連生団信(デュエット) 申込本人または配偶者の死亡・所定の身体障害 新機構団信付きのフラット35の借入金利+0.18%

民間ローンの場合、通常は団信への加入を必須としていますが、フラット35の場合は加入するかどうかは任意です。また、申込者の健康状態などの理由で団信に加入できない場合でも、フラット35を利用することができます。

ただし、団信に加入しない場合は、債務者に万一があり、死亡した場合でも、住宅ローンの債務は残り、遺族が返済を引き継ぐ場合があるので注意が必要です。

2-3.フラット35のデメリット

① 借入金利が相対的に高い
② 借入以降に市場金利が低下しても借入金利は変わらない
③ 購入する住宅に関して独自の基準がある

2-3-1.デメリット① 借入金利が相対的に高い

同じ状況下で、フラット35と変動金利型の借入時点の金利を比較すると、一般的にはフラット35の金利のほうが高めに設定されます。

2-3-2.デメリット② 借入以降に市場金利が低下しても借入金利は変わらない

前述の「メリット① 借入時点の金利で固定される」は、場合によってはデメリットにもなりえます。仮に借入以降に大きく市場金利が下がったとしても、変動金利型の住宅ローンのように返済途中で金利が下がることはありません。この場合、より金利の下がったフラット35に借換えるなどの手段がありますが、借換えには手数料がかかり必ずしも総返済額の軽減効果が生じるとは限らないので、注意が必要です。

2-3-3.デメリット③ 購入する住宅に関して独自の基準がある

フラット35を利用するためには、購入する住宅に関して独自の技術基準が設けられており、どのような住宅にでも利用できるものではありません。そして、その技術水準を満たしていることを住宅金融支援機構に証明する適合証明書の提出が必要で、そのための検査費用がかかります。

3.フラット35と変動金利型の返済負担の比較


ここでは、フラット35と、返済期間中に金利が上昇した場合の変動金利型の住宅ローンを、毎月の返済額と総返済額の面から比較して見てみましょう。

<共通条件>
借入額:3,000万円
借入期間:35年
融資率:9割以下
返済方法:元利均等返済、ボーナス払いなし

金利タイプ:①フラット35(全期間固定金利型)、②③変動金利型
金利:下表の動きをとると仮定

当初10年間 11〜20年目 21〜30年目 31〜35年目
①フラット35
(全期間固定金利型)
1.3% 1.3% 1.3% 1.3%
②変動金利型A 0.5% 1.5% 2.5% 3.5%
③変動金利型B 0.5% 2.5% 4.5% 6.5%

(矢印の向きは直前からの金利の動向を示しています)

毎月の返済額 総返済額 ①を基準にした差額
①フラット35 88,944円 37,356,564円 -
②変動金利型A 1~10年目 77,875円 37,003,580円 -352,984円
11~20年目 87,814円
21~30年目 94,329円
31~35年目 96,690円
③変動金利型B 1~10年目 77,875円 41,879,399円 4,522,835円
11~20年目 98,896円
21~30年目 113,461円
31~35年目 119,079円

住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用して計算。手数料等の諸費用は計算に含めていません。

【① フラット35と②変動金利型Aの比較】

上記のシミュレーションでは、当初年率0.5%から10年ごとに年率1.0%上昇する、②変動金利型Aの場合、①フラット35と比べ毎月の返済額は21年目で逆転します。しかしながら、20年目までは②変動金利型Aのほうが毎月の返済額が少なかったため、総返済額では①フラット35よりも小さくなります。

このシミュレーション上では、ある程度の金利上昇であれば、変動金利型のほうが総返済額の面では有利であることがわかります。つまり、借入当初のフラット35の借入金利が相対的に高いことが、その後の金利上昇を考慮しても影響として残ったということです。

【① フラット35と③変動金利型Bの比較】

上記のシミュレーションでは、当初年率0.5%から10年ごとに年率2.0%上昇する、③変動金利型Bの場合、①フラット35と比べ毎月の返済額は11年目で逆転します。また、総返済額で見ても、③変動金利型Bのほうが大きくなります。

このシミュレーション上では、①フラット35の全期間固定金利であることのメリットが活かされたと言ってよいでしょう。

いずれの場合も将来の金利変動を予測することは困難ですが、金利変動の動向によって返済額がどのように変わるのか、事前にある程度シミュレーションなどによって把握しておくとよいでしょう。

4.デメリットも理解したうえでのご利用を


何ごともメリットとデメリットは表裏一体であることが多く、フラット35においては全期間固定金利であることが良い方向にも悪い方向にも働くことがあります。また、団信の加入が必須ではないため、健康状態に不安のあるかたでもフラット35に申込むことができる点がメリットと見られることもありますが、加入しない場合、万一の際に大切なご家族に住宅ローンの債務が残ってしまいます。

ご自身のライフプランなどをよく考慮し、様々なケースを想定して複数のシミュレーションをすることも大切です。また、住宅ローンのことで困ったことがあれば、金融機関に相談することも選択肢のひとつではないでしょうか。

タイトル

タイトル
  • 片上 佳明

    愛媛住宅ローン相談プラザ 代表

    高知大学人文学部経済学科を卒業。銀行員として約20年勤務し、現在はファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザーとして活動。銀行員時代には、住宅ローンの借入手続、実行、管理、回収のすべての業務に携わった、住宅ローンのプロフェッショナル。住宅ローン実務の経験を活かし、年間約120件の住宅ローン相談を受ける。
    【保有資格】住宅ローンアドバイザー/2級ファイナンシャル・プランニング技能士


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