育児休業は子どもが1歳になるまで取得できますが、所定の条件を満たせば延長も可能です。また、男性の育児休業取得を促進するために、子どもが1歳2カ月になるまで休業を延長できる制度もあります。
今回の記事では、西岡社会保険労務士事務所の西岡代表に育児休業の延長について解説していただきます。法定の範囲内で育児休業を取得すると国からの給付金をもらえるため、育児休業の延長を考えている人は延長できる条件や申請手続きについて確認しておきましょう。
育児休業(以下、育休)とは、子どもを養育するために取得する休業のことです。会社が設ける育児休業制度では、取得できる条件や期間は会社によって異なります。
今回の記事で解説する育休は、「育児・介護休業法」に規定される育休です。
会社によって育児休業制度は異なり一般的に育児休業中は無給であるのに対し、法定の育児休業期間については国から「育児休業給付金」が支給されます。つまり、法定の育休は、子育てする親に対する支援制度といえます。
育児・介護休業法第5条では「養育する1歳に満たない子について、事業主に申し出ることにより、育児休業をできる」と定められています。つまり、「産休終了後から子どもが1歳になるまで(誕生日前日まで)」が育休期間になります。
また、育休を取得するには次の条件を満たさなければなりません。ただし、週の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外です。
養育する子どもについては、実子や養子のほか、特別養子縁組のために試験的に養育している子どもなども対象になります。
前述の条件を満たした育休に対し、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。育児休業給付金は支給単位期間(1カ月)ごとに次の通り計算します。
休業開始時賃金日額は、「育休開始前(女性は産休開始前)6カ月の賃金÷180日」で計算します。大雑把にいうと、育児休業給付金は直近6ヶ月の平均賃金の2/3、6カ月経過後は平均賃金の半分です。
法定の育休を取得できるのは原則子どもが1歳になるまでですが、所定の条件を満たせば延長も可能です。育休を延長できる条件や期間について説明します。
育休を延長できる主な条件は、育休を延長しないと子育てできる人がいないことです。具体的には次の通りです。
また、育休終了後に復職見込みがあることも延長できる条件の1つです。
子どもが1歳になった時、前述の条件を満たせば育休は子どもが1歳6カ月になるまで延長されます。また、1歳6カ月になった時も状況が変わらなければ、2歳まで再延長されます。
(育休延長のイメージ)
引用:厚生労働省「保育園等に入れない場合2歳まで育児休業が取れるようになります!」
努力しても子育てができない人や入所できる保育園が見つからない場合に延長を認める例外的な措置であるため、子どもが1歳になった時に「2歳まで延長希望」という申請は認められません。 また、育児休業の延長を目的に、保育園に入園する意思がないのに申込を行い落選したことを理由に延長申請をすることはできません。
次に、育休を延長するための手続きや必要書類について解説します。また、育休取得の手続きと同時に、育児休業給付金の申請を忘れずに行いましょう。
育休の申請先は勤務先である会社です。育児休業給付金の申請先はハローワークですが、会社経由で手続きを行うため、従業員が育休取得と育児休業給付金の申請するのは、どちらも会社ということになります。
育休延長の申請方法や申請時期は会社が任意で決めるので、会社のルールに従って手続きします。育休の延長を希望する場合は、できるだけ早い時期に勤務先の担当者に連絡するのがいいでしょう。
一方、育児休業給付金の申請は実際に育休を延長した後に行います。給付金申請は2カ月に1回行うのが原則で、育休延長後の申請時に「延長に必要な確認書類」を会社がハローワークに持参して手続きします。
育休の延長に伴い育児休業給付金の支給を延長してもらうためには、次の3つの書類をハローワークに提出をしなければなりません。
①育児休業給付金支給申請書
②賃金台帳、労働者名簿、出勤簿など賃金額や支払状況を証明する書類
③延長に必要な確認書類
①②の書類は育休延長する前の申請でも必要ですが、育休延長後の申請では③の「延長に必要な確認書類」を同時に提出しなければなりません。確認書類は育休の延長が必要な理由によって次の通りです。
(延長に必要な確認書類)
延長が必要な理由 | 延長に必要な確認書類 |
保育所等が見つからない | 市町村より発行された証明書 |
養育予定者が死亡して養育が困難 | 住民票の写し・母子健康手帳 |
養育予定者がけが・病気で養育が困難 | 医師の診断書 |
離婚などで子の養育者と別居 | 住民票の写し・母子健康手帳 |
新たな妊娠による産前・産後 | 産前産後に係る母子健康手帳 |
共働き世帯が育休を取りやすくするための制度が「パパ・ママ育休プラス」です。制度の概要と男性の育休取得について説明します。
「パパ・ママ育休プラス」を利用すると、夫婦で育休を取得する場合、子どもが1歳2カ月を迎えるまで育休期間を延長できます。制度利用の条件は次の通りです。
一般的には、配偶者が妻、本人が夫になります。夫婦とも子どもが1歳になる前に育休を開始し、妻が夫より先に休暇を開始していれば、夫は子どもが1歳2カ月を迎えるまで育休を延長できます。
(「パパ・ママ育休プラス」のイメージ)
○両親がともに育児休業を取得する場合、原則子が1歳までの休業可能期間が、子が1歳2か月に達するまで(2か月分はパパ(ママ)のプラス分)に延長されます。
○例えば以下の場合、2人合わせて1歳2か月まで67%給付を受けられます。
育休期間は延長されますが、育児休業給付金を受給できるのは最大1年です。
「パパ・ママ育休プラス」は男性の育休取得促進を目的に2010年にスタートしました。しかし、厚生労働省の調査(2019年10月現在)によると男性の有給取得率は7.48%(女性は83.0%)と低位です。
2021年(令和3年)6月1日の改正育児・介護休業法では、育休の分割取得など、男性が育休を取りやすい仕組みづくりが行われました。国の子ども・子育て支援策の一環として、育休の取りやすい環境づくりの推進が予想されます。
育休は原則子どもが1歳になるまで取得できますが、所定の条件を満たせば延長(1歳6カ月または2歳まで)も可能です。延長できるのは、保育所が見つからないなど子育てができる環境が整っていないケースです。
育休の取得は、国からの支援を受けられたり育児後の仕事を確保できるなど、大きなメリットがあります。メリットを活かすためにも、育休取得を容易にする育休の延長制度を有効に活用しましょう。