育児休業休暇(以下、育休)を取ると妻の年収は下がるので、配偶者控除が適用される可能性があります。
「配偶者控除を受けるための条件は?」「どんな手続きをすればいいの?」「育児休業給付金をもらった時はどうなるの?」など、様々な疑問を感じるかたもいらっしゃるでしょう。
今回の記事では、育休によって配偶者控除が適用される条件や控除額、申告方法を中心に西岡社会保険労務士事務所の西岡代表に解説していただきます。育休で収入が下がり家計に負担がかかる時期だからこそ、大きな税制優遇効果の期待できる配偶者控除制度を効果的に活用しましょう。
配偶者控除は所得控除の1つで、所得控除を受けられるのは配偶者ではなく本人です。 所得控除により税金が安くなるので、育休中でも利用できるのかを確認しましょう。
育休中でも配偶者控除を受けられます。配偶者の仕事の有無や就業状況は問わないからです。ただし、配偶者が会社をやめない限り、社会保険の扶養に入ることはできません。
配偶者控除が適用される条件は次の5つです。
※給与収入から給与所得控除額65万円を差し引いた額。令和2年度より38万円から48万円に変更。
配偶者がフルタイムで仕事をしていたときの年収が103万円を超えていた場合は配偶者控除が適用されませんが、育休で無給になれば収入条件を満たして控除対象配偶者に該当します。
配偶者控除が適用される5つの条件のうち、配偶者の収入条件(年間収入103万円以下)が未達でも、一定の所得控除を受けられる場合があります。配偶者特別控除というもので、適用条件は次の5つです。
配偶者の収入条件以外は、配偶者控除の条件と同じです。ただし、控除額は配偶者控除より少なく、配偶者の収入が高くなるほど控除額は減少します。
配偶者控除(または配偶者特別控除)が適用されるかどうかは配偶者の所得で判定されるので、給与所得控除以外に控除できるものがあれば適用される可能性はより高くなります。
各種控除の中で注目したいのが医療費控除です。出産に伴う母親の体調不良や、生まれたばかりの子供の病気など、医療費の支払いが増える可能性があります。10万円を超える医療費は、医療費控除で所得控除できますので必ず確認しましょう。
配偶者控除が適用されると、いくらの所得控除を受けることができ税金はいくら抑えられるのでしょうか。配偶者控除で受けられる控除額についてみていきましょう。
配偶者控除で受けられる控除額は、納税者本人の所得によって決まります。
(本人の所得別控除額)
本人の合計所得金額 | 配偶者(70歳未満) | 配偶者(70才以上) |
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
所得金額が1,000万円以上の人は配偶者控除を受けることができません。
配偶者特別控除で受けられる控除額は、控除を受ける本人の所得だけでなく配偶者の所得によっても異なります。
(本人と配偶者の所得別控除額)
配偶者の合計所得金額 | 本人の合計所得金額 | ||
900万円以下 | 900万円超950万円以下 | 950万円超1,000万円以下 | |
48万円超95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 |
100万円超105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 |
105万円超110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 |
110万円超115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 |
115万円超120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 |
120万円超125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 |
125万円超130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 |
130万円超133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
配偶者控除を受けることによってどれだけの税制優遇効果を受けられるかを、モデルケースで確認してみましょう。
(モデルケース)
妻の所得は0円なので配偶者控除額は38万円です。夫の所得38万円に対する所得税が不要となるため、戻される税額は次の通りです。
所得税だけではなく住民税(約10%)も安くなり、源泉徴収された税金が戻ってきます。
育休で配偶者控除が適用されるようになった場合、どのような手続きが必要でしょうか。手続きの方法と必要書類について説明します。
妻が育休で配偶者控除が適用されるとき、夫が会社員ならば年末調整で控除申告できます。必要書類は会社から交付される「給与所得者の配偶者控除等申告書」です。
添付の記入見本を参照して必要事項を記入し、会社に提出するだけで控除申告できます。
夫が自営業者の場合、確定申告の時に配偶者控除の申告を行います。会社員が年末調整で配偶者控除の申告を忘れた場合も、確定申告をすれば所得控除が適用されます。
具体的には、確定申告書の「配偶者(特別)控除額」「配偶者の合計所得金額」「配偶者情報(氏名や生年月日、マイナンバーなど)」の記載欄に記入するだけです。
もし、年末調整や確定申告で配偶者控除の申請を忘れたとしても、5年以内なら還付申告することによって控除を受けることができます。申告方法は確定申告とほぼ同じです。
育休中は無給のケースがほとんどですが、健康保険や雇用保険から給付を受けられるケースもあるので申告漏れのないようにしましょう。
産休中や育休中に受けられる主な給付金は、「出産一時金」「出産手当金」「育児休業給付」の3つです。
出産一時金と出産手当金は健康保険からの給付です。
育児休業給付は雇用保険からの給付です。1歳未満の子(2歳まで延長可能)を養育するため休業した場合、1日につき直近給与の約2/3が支給されます。
出産手当金と育児休業給付では、計算基礎となる直近給与の定義が異なります。詳細は下記リンクで確認下さい。
育休で無給になっても、出産手当金や育児休業給付をもらうと配偶者控除が適用されなくなるのでは、と考える人もいらっしゃるかもしれません。 しかし、産休中や育休中に受けられる給付金などは非課税で、配偶者の所得金額にも含めないため、配偶者控除の適用には影響しません。
育休で妻の所得が48万円を下回れば、配偶者控除が適用されます。夫の所得が900万円以下ならば控除額は38万円になるので、大きな税制優遇効果が期待できます。 また、雇用保険の育児休業給付などをもらった場合も妻の所得には含まれません。育休による収入減を補うためにも、配偶者控除の申告を忘れずに行いましょう。