住宅ローンを検討するうえでは、金利水準や金利タイプだけでなく、返済期間をしっかりと考える必要があります。返済期間について、一般的に上限となるのが35年ローンです。返済期間は、完済時の年齢だけでなく、毎月のローン返済の負担や総返済額にも影響することから、しっかりと検討すべきです。
しかし、25年、30年先のことを考えるのは容易ではなく、とりあえず35年を選択するというかたもいるのではないでしょうか。この記事では、35年ローンで借入れするメリットとデメリット、長期間無理なく返済するためのポイントについて解説します。
住宅ローンを35年で借りると、年間の返済負担額を抑えやすくなります。ここでは、35年ローンのメリットを返済シミュレーションも交えながら解説します。
住宅ローンの月々の返済額は、借入額や金利、返済方法が同じ場合、返済期間が長くなるほど少なくなります。例えば5,000万円を年率1.2%、元利均等返済方式、ボーナス割合なしで借りた場合で、返済期間ごとの毎月の返済額の違いを、住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使って比較してみましょう。
返済期間 | 毎月の返済額 |
15年(180回) | 30.4万円 |
25年(300回) | 19.3万円 |
35年(420回) | 14.6万円 |
(手数料等のその他の条件は計算に含めていません)
上記の通り、同じ金額を借入れても返済期間が長いほど、1回あたりの返済額が少なくなることがわかります。
住宅ローンの借入可能額を決める要因の一つに、年収に対する年間返済額の割合(返済負担率)があります。長期で住宅ローンを借入れたほうが月々の返済額が少なくなり年収に対する年間返済額の割合も小さくなりますので、借入可能額も増えるということになります。
今度は住宅金融支援機構の別のシミュレーションツールを使って、年収600万円の人が年率1.2%、元利均等返済、ボーナス割合なしで借入れることができる額を、返済期間ごとに比較してみましょう。
返済期間 | 借入可能額(概算)※ |
15年(180回) | 2,881万円 |
25年(300回) | 4,533万円 |
35年(420回) | 5,999万円 |
※年収に対する年間返済額の割合が35%以下の場合
(手数料等のその他の条件は計算に含めていません)
以上のように、ご自身の収入だけで住宅ローンの借入可能額を増やしたいと考える場合は、返済期間を長くするという選択肢もあります。
住宅ローン控除とは、一定の条件を満たした場合に、入居の年から最大13年間にわたって、住宅ローンの年末残高(12月31日時点の住宅ローンの残高)の0.7%相当額(※上限31.5万円)が、その年に納めた所得税(一部住民税も)から還付される制度です(2024年1月~2024年12月末に入居の場合)。
※2024年に入居する子育て世帯・若者世帯は上限35万円
2022年の税制改正で、2025年12月31日入居まで、住宅ローン控除の適用期間が延長されました。
毎年の控除額の上限は、住宅ローン借入残高によっても変わるため、住宅ローンの返済が進むほど控除額が減っていきます。
この点、住宅ローンの返済期間が長いほど、住宅ローンの残高の減り方はゆるやかになります。つまり、住宅ローン控除の計算の基準となる年末残高が大きくなりやすいので、住宅ローン控除の効果を高められる可能性があります。
ただし後述の2-1でも説明しますが、返済期間が長いほど総返済額が増えますので、住宅ローン控除を利用して得られる効果と総返済額の増加分を比較しておくとよいでしょう。
住宅ローン控除についての詳しい説明は、こちらの記事もご覧ください。
住宅ローンを35年で借入れすることで、毎月の返済負担を減らしたり、借入金額を増やしたりしやすいメリットがある一方、借入時の年齢によっては完済時期が遅くなってしまいます。
ここでは、35年で借入れするデメリットについて解説します。
住宅ローンの返済は借入額や金利、返済方法が同じなら、返済期間が長くなるほど総返済額は増えることになります。
返済期間が長くなるほど、借入期間中に発生する利息が多くなることをイメージするとわかりやすいかもしれません。
5,000万円を年率1.2%、元利均等返済、ボーナス割合なしで借入れる条件で総返済額を比較してみましょう。
返済期間 | 毎月の返済額 | 総返済額 |
15年(180回) | 30.4万円 | 5,466万円 |
25年(300回) | 19.3万円 | 5,790万円 |
35年(420回) | 14.6万円 | 6,126万円 |
(手数料等のその他の条件は計算に含めていません)
このように返済期間が長いほど総返済額は増えるので、総返済額をなるべく抑えたいかたは、毎月の返済額が無理のない範囲で、返済期間を短くするとよいでしょう。
住宅ローンの返済期間を考える際には、完済時点でご自身が何歳になっていて、そのときに働いているのかどうか、ということが重要な要素になるでしょう。
例えば、25歳のかた、35歳のかたが返済期間35年の住宅ローンを借りると返済が終わるのは、それぞれ60歳と70歳になります。定年延長を検討する企業が増えているとはいえ、定年後も住宅ローンの返済が残る可能性が高いのは35歳以上のかたです。定年退職後の返済額をまかなえるだけの退職金や預貯金などの準備があれば問題ありませんが、退職年齢もあらかじめ考慮して借入期間を考えることが大切です。
35年で住宅ローンを返済することを決めても、返済期間中には収入や家計の変化があるでしょう。
ここでは、長期間の住宅ローンを無理なく返済するためのポイントについて解説します。
住宅ローンの返済期間が長い場合と短い場合の特徴をまとめると、以下のようになります。
返済期間が長い | 返済期間が短い | |
毎月(年間)の返済額 | 少ない | 多い |
借入可能額 | 多くなりやすい | 少なくなりやすい |
総返済額 | 多くなる | 少なくなる |
これらの特徴を踏まえ、借入金額を含めて無理のない返済計画を立てることが大切です。この際に重要なことは、将来の収入や支出の見通しを立てることです。
定年後の再雇用による収入減少やリタイア後の年金収入など、現役時代と比較して収入が減少することを想定しておくことが必要です。
また、予測は難しいですが、転職や勤務先の業績などによって収入が変わることもあるでしょう。
さらに、住宅購入後にお子さまが増えると家計の状況も変わります。お子さまの成長に伴って生活費や教育費の負担が増えることもありますし、進学時などの節目で必要となる資金のための貯蓄も必要です。
このようなライフスタイルの変化によって、住宅ローン返済が家計を圧迫しないよう、「とりあえず35年」と考えるのではなく、ライフプランに合わせた無理のない返済計画を考えることが大切なのです。
住宅ローンは、できるだけ定年退職を迎えるまでに完済することが望ましいでしょう。高年齢者雇用安定法の改正により、企業には65歳までの雇用義務に加え、70歳までの定年引上げ、雇用確保の努力義務が課せられています。
そのなかでいつリタイアするかは一人ひとりのライフプランによりますが、定年退職後も住宅ローンの返済が残っていると、家計に対しての返済負担が大きく増すと考えられます。
老後の生活資金に充てるつもりだった預貯金や退職金を住宅ローン返済に充てなければならないということも起こりかねません。
借入金額や家計への負担を考慮して35年返済で借入れしたとしても、余裕があれば、繰上返済で返済期間を短縮することを考えましょう。繰上返済することで、老後の負担を減らしつつ、総返済額も少なくできます。
繰上返済は、返済期間中に借入金額の一部、あるいは全部を繰り上げて返済することです。
一部繰上返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つがあります。
期間短縮型は、毎月(ボーナス返済時含む)の返済額は変更せず、返済期間を短縮する方法です。例えば、当初70歳までだった返済期間を60歳までに短縮すれば、返済期間が短くなった分支払利息を軽減できます。
返済額軽減型は、返済期間は変更せず、毎月(またはボーナス返済)の返済額を減らすことで支払利息を軽減する方法です。
ライフプランの変化により、毎月の住宅ローン負担が大きくなることが予想される際、家計を安定させるのに効果的です。
2つの方法を比較すると、同じタイミングで同じ金額を一部繰上返済する場合、期間短縮型のほうが、利息軽減効果が高いです。目的に応じて2つの方法を上手に使い分けて利用しましょう。
最後に、35年ローンに関するよくある質問について紹介します。
住宅ローンを組める年齢は、申込時の年齢と完済時の年齢によって決まります。
多くの金融機関では、申込時の年齢を70歳未満、完済時の年齢を80歳未満としています。
この条件であれば、35年ローンを組める年齢は44歳までになります。
住宅ローンの金利は、毎月見直しが行われます。
35年全期間固定金利の代表的な商品であるフラット35の2023年の金利推移は以下の通りです。
※借入期間21年以上35年以下、融資率9割以下、新機構団信付きの金利
最低金利 | 年1.72%~1.96% |
最高金利 | 年3.02%~3.53% |
(参考:住宅金融支援機構【フラット35】借入金利の推移「令和3年4月以降はこちら」)
フラット35を取り扱う金融機関によって金利に幅がありますが、多くの金融機関で、最低金利年率1.72%~1.96%となっています。
ただし、適用金利は、審査内容によって変わる場合もあります。
35年ローンの返済期間中でも、家を売ることはできます。
ただし、家を売るためには、住宅ローン残高を完済し、金融機関が設定している抵当権を抹消する必要があります。
家の売却収入で住宅ローンを完済できればよいですが、家の売却収入が住宅ローン残高を下回る場合は、自己資金などの準備が必要です。
また、住み替えの場合には、一般的に審査が厳しくなりますが、住み替えローンを活用して住宅ローンを完済する方法もあります。
「住宅ローン返済期間は35年で組む」という決まりはなく、借入時の年齢や返済期間中の住宅ローンの返済負担感などを想定しながら、適切な返済期間を設定する必要があります。
無理に返済期間を短くすると返済負担率が高くなり、住宅ローン審査や借入金額の面で厳しくなることもあります。そのため、住宅ローン借入時は、余裕を持った返済期間で設定したうえで、お子さまの独立やリタイア時期などのライフイベントも考慮しながら、必要に応じて繰上返済を行うのが良いでしょう。
住宅ローン返済は長期間に及ぶため、返済計画も長期の視点で考えることが大切です。
株式会社あつみ事務所 代表
建設会社・ハウスメーカーで建築設計、不動産売買仲介を経て、不動産・住宅専業ライターとしても活動。これまで不動産・金融メディアを中心に300本以上の記事執筆を手掛ける。現在、不動産売買や住み替えを中立的な立場でサポートするサービスを提供しながら情報発信を行う。
【保有資格】宅地建物取引士・ファイナンシャルプランナー2級技能士・住宅ローンアドバイザー