子なし夫婦に必要な老後資金はどのくらい?豊かな老後に向けた対策

年々出生率が低下する中、2020年にはコロナ禍でさらに少子化が加速するという傾向もあるようです。子供を持たない、あるいは持てない理由は様々ですが、子どもがいない夫婦は今後も増えていくことが予想されます。子供がいない夫婦の老後生活の準備はどのように考えたらよいのでしょうか。

今回は、子供がいない夫婦が老後に抱えやすい悩みや老後資金等の準備をどのように考えたらよいのか、株式会社 家計の総合相談センターの石川友紀さんに解説いただきました。

1.子なし夫婦が抱えやすい老後の悩み


子供がいない夫婦の老後の生活設計はどのように考えたら良いのでしょうか。まずは子どもがいない夫婦が老後に抱えやすい悩みを見ていきましょう。

1-1.現役時代との収入の違い

リタイア後の収入は主に公的年金や企業年金などの年金です。一般的に、現役で働いている時代と比べて収入は大きく減ることになります。夫婦それぞれに収入がある場合、現役時代の世帯の年収が多かった時と比べるとその落差が大きく感じることもあるようです。また、子供の教育資金が必要ない分、自分たちの趣味などに自由にお金を使ってきたという方も多いかもしれません。そのような場合、すぐには年金収入に合わせた生活に変えることができないという悩みもあるようです。

1-2.どちらかに介護が必要になったら

夫婦のどちらかに介護が必要になった場合、子供に頼るということが期待できないため、自分たちで対応していくことになります。自分一人ですべての面倒を見ることには限界があるため、介護の専門家の助けを借りることになるでしょう。その際の費用は公的介護保険も活用できますが、費用の一部は自己負担になります。また老人ホームや介護施設に入る場合はその資金の準備も必要です。

生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」平成30年度によると、介護に要した費用の平均は、一時的な費用が約69万円、月額は約7.8万円となっています。同じ調査で介護期間の平均は約54.5ヶ月(約4年7か月)であるため、平均の費用・期間で試算すると、総額で1人約500万円程度は見込んでおいた方がよさそうです。

一時的な費用(住宅改築や介護ベッドの設置など)

=69万円

毎月の費用

=7.8万円×54.5=425.1万円


合計 494.1万円≒500万円

1-3.相続の問題

子供がいない夫婦にとっては、相続についても悩みの種となりやすいです。

子供がない夫婦のどちらか一方が亡くなった場合、その亡くなった人の財産は残された夫もしくは妻がすべて自動的に相続できると思われるかもしれませんが、そうではありません。相続人になれる範囲と順位は民法によって決まっており、亡くなられた配偶者の両親や兄弟姉妹と協議をして遺産分割を行うこととなる場合があります。

特に配偶者の兄弟姉妹とはそれほど交流もなく、遺産分割協議がスムーズに進まないということもあるかもしれません。遺産分割で揉めないためには事前に対策をしておくことが必要です。

1-3-1子なし夫婦のどちらかが亡くなった場合の相続人

民法では相続人の範囲は以下のように決まっています。なお、先の順位の人がいる場合は後の順位の人は相続人になることはできません。

遺産相続順位 配偶者は常に相続人となる
第一順位
第二順位 直系尊属(父母や祖父母など)
第三順位 兄弟姉妹

亡くなった方の配偶者は常に相続人となりますが、第一順位の子供がいない場合は、配偶者と父母などの直系尊属、第二順位の直系尊属もいない場合は配偶者と亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になります。

1-3-2相続のトラブルを避けるために

相続のトラブルを避けるために、まずは夫婦でどちらかが亡くなった時に財産をどうしたいか話合っておくことが重要です。その希望を叶えるためには遺言書を作成しておくとよいでしょう。夫が亡くなった場合の相続人が妻と夫の兄弟姉妹だという場合、妻にすべての財産を遺すという遺言書を作成しておけば、下記の例外を除き、妻は問題なくすべての財産を相続することができます。

なお、相続人が配偶者と父母の場合、相続財産の一定割合を受け取ることを保障する遺留分に配慮する必要があります。

2.子なし夫婦の老後に必要な資金はどのくらい?


子供がいない夫婦の老後資金はどのくらい必要になるのでしょうか。夫婦2人の生活費や収入を想定して必要資金の目安を考えてみましょう。

2-1夫婦2人の生活費

総務省の家計調査では夫婦2人世帯の消費支出の平均は月額約26万円です。ただ、生活費がいくら必要かはどのような暮らしをするのかによりまちまちです。できれば、現在の生活費を把握してそこから老後に必要のない資金を差し引いて考えてみましょう。

                           
消費項目 金額
食料 69,133円
住居 17,921円
光熱・水道 19,757円
家具・家事用品 11,551円
被服及び履物 6,571円
保健医療 15,568円
交通・通信 36,433円
教育 32円
教養娯楽 22,462円
その他の消費支出 56,225円
支出合計 255,652円

出典:総務省統計局 家計調査 2020年 2人以上世帯 夫婦2人世帯

この他に一時的に必要な資金もあります。持家の場合は修繕費、賃貸の場合は更新料、新たに家を購入する場合はその資金準備も必要です。自動車を所有している場合は自動車税や自動車保険などの維持費や買換えの費用。旅行や趣味にも一時的な資金が必要な場合もあるでしょう。また前述の介護にかかる費用なども見積もっておく必要があります。

2-2夫婦の老後の収入

日々の生活費や一時的に必要な資金を見積もったら、次は収入を確認します。

老後の収入の柱は公的年金です。厚生労働省年金局の厚生年金保険・国民年金事業の概要(令和元年度)によると、厚生年金に加入していた人(会社員など)の年金受給額は平均で月額約146,162円。国民年金のみ加入していた人(自営業者や専業主婦など)は月額約56,049円です。この金額を元にして考えると夫婦ともに会社員の場合、公的年金の受給額は月額約29万円となります。夫が会社員、妻が専業主婦の場合は約20万円(約146,162円+約56,049円)です。

この他に、お勤めの企業によっては退職金や企業年金が見込める場合もあるでしょう。これらがいくらになるのかは、自身のお勤め先で確認しておきましょう。

2-3自分で準備する金額はいくら?

基本的な生活費の金額が夫婦2人の平均額である約26万円だとすると、夫婦共働きの場合、公的年金だけでも十分というケースもありあます。その場合は生活費以外の一時的に必要となる額を準備しましょう。

妻が専業主婦で公的年金が約20万円と仮定した場合、月額約5.5万円不足し、年間で約66万円、30年間で約2000万円の不足ということになります。さらに、毎月の生活費以外の一時的な支出の準備も必要です。

この計算はあくまで、平均の額を使ったものです。生活費や年金収入は人によって異なるため、すべての方にこの金額が当てはまるわけではありません。また、一時的支出についても、持家かどうか、車の所有状況、旅行費用や趣味などにどれだけお金のかけるのか、介護が必要となった場合は自宅介護か施設に入るのか・・・など様々な要因で変わります。そのため「自分たちの場合は」を計算するには、具体的にどんな生活をしたいかイメージしてそこから必要資金を算出しましょう。また、公的年金はねんきん定期便や日本年金機構の年金ネットなどを活用して受給額を試算することができます。

3.子なし夫婦の老後資金対策


子供がいない夫婦の老後資金の準備はどのような点に注意したらよいでしょうか。

3-1老後資金の準備は計画的に

子供がいない夫婦の場合は教育資金の準備は必要ありません。そのため比較的家計に余裕があり、早い時期から老後資金の準備が可能です。一般的に子育て期間の30代40代は老後資金にまで手が回らないということもありますが、子供がいない夫婦にとってはその金額を老後資金の積立に回すことが可能です。

ただ、何も意識をしていないと家計に余裕がある分、自分たちの趣味などにお金を使ってしまい、なかなか貯まらないという状況にもおちいりがちです。そうならないためにも具体的に目標を立てることが重要です。例えば、60歳までに3000万円を貯めることを目標とする場合、35歳からスタートすると年間120万円、40歳からスタートであれば年間150万円の積立額となります。

3-2老後資金作りに適した積立制度

老後資金は金額も大きく、短期で準備できるものではないため、長期的に積み立てできるしくみを活用しましょう。

具体的には、勤め先に制度があれば、企業型DCのマッチング拠出、給与や賞与が原資の選択型の企業型DC。勤め先に制度がなければiDeCo。その他、つみたてNISA、個人年金保険、財形年金貯蓄などの積み立て制度があります。中でも勤め先に制度があれば、企業型DCやiDeCoは税制メリットが大きいため積極的に活用を検討したいところです。

4.夫婦で話し合い目標を共有


子供がいない夫婦には、お互いに仕事を持ち、時間やお金の使い方についてあまり干渉しないという方も多いようです。しかし老後資金の準備においては、お互いの進む方向が別々では目標を達成することは困難です。どんな場所でどんな生活を送りたいのか具体的なシニアライフをイメージして目標を共有しましょう。

病気や介護が必要となった場合には、子供に頼ることが期待できない分、不安が大きいと感じることもあるでしょう。元気な時にいざとなったらどこに相談したらよいのか、どんな制度が活用でき、どのような手続きが必要なのかまとめておくことも必要です。万が一の場合、自分がどんな行動をとる必要があるか見えていることで不安を少しでも解消することにつながります。

タイトル

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  • 石川 友紀

    株式会社家計の総合相談センター 

      20年以上にわたりファイナンシャルプランナーとして活動。 企業向けセミナー、確定拠出年金セミナー、消費者向けセミナー、大学FP講座等で講師を担当。大手企業従業員向けや住宅メーカー顧客向け等での個人ライフプランコンサルティングを行う。成美堂出版「FP技能士最速合格ブック」など著書多数。
    【保有資格】1級FP技能士/CFP®


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