育児休業中は給与が支払われないのが一般的ですが、それでも年末調整は必要なのでしょうか。
結論から言うと、育休中でも年末調整は必要です。また、配偶者の年末調整で「配偶者控除」を受けられる場合があるなど、税制優遇制度によるメリットにつながることもあります。
今回の記事では、育休中の年末調整について解説します。具体的な手続きやよくある質問への回答も紹介しますので、税制上の優遇制度を正しく活用できるように必要な手続きをしましょう。
育休中でも原則、年末調整が必要です。まずは、年末調整の役割と育休中に年末調整が必要なケースと不要なケースについて解説します。
年末調整とは、従業員の1年間の給与所得が確定した12月に、会社などが正しい所得税を計算し、既に源泉徴収された所得税との差額を精算する制度です。
毎月給与から天引きされる所得税の金額は、生命保険料控除や社会保険料控除などの各種控除を反映しない概算数値です。これについて、年度末に正しい所得税額を算出して払いすぎた税金(または不足する税金)を精算するのです。
所得税は課税所得に対して所得税率を掛けて計算します。会社員の課税所得は、給与収入から各種控除を差し引いて計算します。
参考:国税庁「所得税のしくみ」
収入から控除できるのは、主に次の通りです。
扶養控除や各種控除のない会社員にも基礎控除や給与所得控除が適用されるため、両控除を合計した103万円までの収入(所得は0円)に対しては所得税がかかりません。
育休中に年末調整が必要なのは、年末調整で申告することによって所得税額が変わるケースです。具体的には次のケースが該当します。
また、育休で1年間に数ヶ月しか仕事していないといった人なども、1年間同じ給与で仕事する前提で源泉徴収されるため、各種控除がなくても年末調整によって還付を受けられることが多いと考えられます。
なお、1年間全く収入がなかった人は所得税の精算は不要ですが、年末調整で「扶養控除等申告書」を提出すれば、翌年の源泉徴収時に扶養控除が反映(扶養控除を考慮して所得税が源泉徴収される)されます。
育休を取得する本人の年末調整は前述のとおりですが、育休を取得する人の配偶者の年末調整についても気をつけたい点があります。
なぜなら、育休を取得した人の収入が減ったことで配偶者が「配偶者控除」や「配偶者特別控除」を受けられる可能性があるからです。配偶者の所得が1,000万円以下ならば、育休取得者(控除対象配偶者)の所得によって次の控除が受けられます。
※上記の所得は基礎控除(48万円)の控除前。
産休や育休により所得が48万円以下に下がった場合(配偶者の所得は900万円以下)、配偶者は38万円の配偶者控除を受けられるため、税制上のメリットが生じます。
育休中に年末調整が不要なのは、主に「非課税の収入」と「年末調整で申告できない所得控除」です。
「非課税の収入」の主な例は次の通りで、年末調整で申告の必要はありません。
「年末調整で申告できない所得控除」の主な例は次の通りです。所得控除を受けるためには確定申告が必要です。
年末調整の申告は源泉徴収を行っている会社から税務署へ行いますが、年末調整を行う方は会社へ提出する申告書の記入や添付書類の提出も必要です。育休中の年末調整の手順と必要書類について確認しましょう。
必要書類は「源泉徴収票」のほかに、「年末調整の各種申告書」と「所得控除を受けるための添付書類」などがあります。
「年末調整の各種申告書」は会社から配布される次の申告書です。
「所得控除を受けるための添付書類」は控除の種類によって次の通りです。
※2回目以降の住宅ローン控除(所得控除ではなく税額控除)を受けるには「住宅借入金等特別控除証明書」と「借入金の年末残高等証明書」が必要。
必要書類の準備ができたら、次は「年末調整の各種申告書」の記入です。受けようとする扶養控除や各種控除の申告項目に必要事項を記入します。
記入方法は国税庁HPに添付されている下記リンクで確認するか、勤務先の担当者に確認しましょう。
参考:国税庁「令和3年分 給与所得者の扶養控除等申告書の記載例」
参考:国税庁「令和2年分 給与所得者の基礎控除申告書・給与所得者の配偶者控除等申告書・所得金額調整控除申告書の記載例」
年末調整書類を記入したら、添付書類を添えて会社に提出します。育休中のため郵送するか会社に持参することになりますが、提出の期限には注意しましょう。
会社は従業員全員の所得税の再計算や源泉徴収した所得税との差額計算をした上で、翌年1月10日までに税務署に報告しなければなりません。会社への提出が遅れた場合、自分で確定申告が必要です。
育休中の年末調整の概要を解説しましたが、ほかにも疑問に思うことはあるでしょう。そこで、社会保険労務士としての業務の中でお受けする「育休中の年末調整についてのよくある質問」を紹介します。
出産手当金や出産育児一時金、育児休業給付金は、年末調整の対象にはなりません。すべて、非課税の収入であるため、所得には含まれないからです。
配偶者の勤務先で手続きします。
配偶者が「給与所得者の基礎控除申告書・給与所得者の配偶者控除等申告書・所得金額調整控除申告書」により申告すれば、配偶者は「配偶者控除」を受けられます。
社会保険は配偶者の扶養に入る(配偶者の勤務先の社会保険に加入する)必要はありません。育休取得者は今まで通り、自分の勤務先で健康保険と厚生年金に継続加入します。
住宅ローン控除や生命保険料控除などを利用できます。ただし、育休取得者の収入が減少して各種控除を受けてもメリットが少ないケースもあります。
生命保険料や医療費などを配偶者が負担すれば、育休を取らない配偶者が所得控除(生命保険料控除や医療費控除)を受けることで税制上の優遇が生じる可能性もあります。ただし、住宅ローン控除は控除を受ける人は変更できません。
確定申告して所得税を精算します。確定申告期間は、申告年度の翌年2月16日~3月15日までの1か月間です。
確定申告が間に合わなかったときでも、還付の申告だけなら申告年度の翌年1月1日から5年間提出できます。
年末調整で、対象の期間中に生まれた子供の申告は不要です。扶養控除は16歳以上の子どもが対象であるため、手続きする必要はありません。
年末時点で退職している場合、年末調整はできません。自分で確定申告する必要があります。
年末調整は「12月31日時点でその会社に在籍している人」を対象に、会社が従業員に代わって、所得税の精算をしてくれる仕組みです。
年末調整とは、1年間の給与所得が確定した12月に各種控除などが反映した正しい所得税を計算し、源泉徴収された所得税との差額を精算することです。年末調整によって、払いすぎた税金が還付されます。
原則、育休中でも年末調整は必要です。育休で年収が減っても年末調整によって還付される可能性もあります。
育休取得者の配偶者が「配偶者(特別)控除」を受けられる場合は、税制優遇のメリットを大きく受けられる可能性がありますので、配偶者の勤務先で手続きしましょう。