マイホームを購入する際、必ず頭金を用意しなければ住宅ローンは組めないとお考えのかたも多いのではないでしょうか。各金融機関が設ける条件を満たし、返済能力に問題がなければ、頭金なしでも住宅ローンを組んでマイホームを購入することができる場合があります。
しかし、頭金なしで住宅ローンを組むことにはデメリットや注意点があり、利用するには慎重な判断を要します。
今回は、頭金なしで住宅ローンを組むことのメリットや注意点について、ファイナンシャルプランナーとして活躍されるラポール・コンサルティング・オフィス代表の竹国さんに、解説していただきます。
かつては頭金なしでは住宅ローンを契約できない時代もありましたが、現在は頭金なしで住宅ローンを契約することも可能となり、利用されるようになっています。
この記事での「頭金」とは、住宅購入総費用のうち、住宅ローン等の借入れ以外の自己資金部分のことを指します。例えば、総額3,000万円の住宅を購入するにあたって、2,700万円の借入れと300万円の自己資金を用いるとした場合、この300万円の部分が頭金となります。
頭金なしで組む住宅ローンは、住宅価格(物件価格)の全額を借入れることから「フルローン」と呼ばれることがあります。
利用する金融機関の融資条件を満たし、返済能力などに問題がなければ、頭金なしでも住宅ローンを組むことができます。ただし、頭金がある場合に比べて借入金額が増え、返済負担率(年収に対する年間返済額の割合)も大きくなるため、金融機関の審査においてより厳しく見られることがあります。
令和元年度の国土交通省の「住宅市場動向調査報告書」によると、頭金の平均金額はおおむね1,000万円~1,800万円、物件価格の割合にして20%~40%という調査結果が出ています。この数字は全国平均ですので、地域によって差があると考えられますし、どうやって頭金を用意するかの手段も様々でしょう。上記の報告書には、地域ごとの平均や、その資金の内訳などのデータも掲載されていますので、ご参考となると思われます。
また、一般的に「頭金は物件価格の2割以上が目安」などと、基準が示されることがありますが、以前は物件価格の8割までしか融資を組めない金融機関が多く、物件価格の2割以上の頭金がなければ住宅ローンを組めなかった時代の名残とも言われています。
住宅ローンの頭金について検討する際は、平均や一般論などではなく、家計の状況や返済計画、利用する金融機関・商品の借入条件、購入時に必要な諸費用などをふまえて判断することが大切です。これらを考慮してご自身の返済計画に適していると判断するならば、頭金なしで住宅ローンを組むことも、選択肢のひとつとなるでしょう。
>>頭金の平均額や検討ポイントはこちらの記事でも解説しています。
マイホームはなるべく早く手に入れたい、しかし自己資金が十分ではない、あるいは教育資金などの別の重要な資金使途がある、などの場合でも頭金なしで住宅ローンを組むことで、下記のメリットが期待できます。
住宅は同じ物件が存在しないいわゆる「一点もの」であり、理想の住宅が見つかったとしても、タイミングを逃せば購入できなくなってしまいます。頭金なしで住宅ローンを組むという選択肢があれば、頭金が貯まるまで購入を先延ばしにすることなく、希望の住宅が見つかった際に、速やかに購入できるというメリットがあります。
住宅購入時に頭金を入れると、手元資金は目減りしてしまうため、あえて頭金なしで住宅ローンを組み、手元に資金を残しておくこともひとつの選択肢です。手元資金に余裕を持っておけば、急な出費や近い将来必要となる資金にも対応でき、家計を柔軟にやりくりしやすくなるというメリットがあります。
住宅ローンの完済のタイミングを定年退職などに合わせると考えるなら、住宅ローンの借入れの時期が早いほど、毎月の返済額の負担は小さくなるというメリットがあります。
また、賃貸住宅に暮らしている人が頭金を準備してから住宅を購入する場合、頭金の貯蓄と毎月の家賃の支払いを並行して行わなければなりません。住宅を購入する意思が固まっているのであれば、すぐに購入したほうが余分な家賃を支払う必要がなくなるという考え方もあるでしょう。
頭金なしでなるべく早くマイホームを購入するのか、頭金が貯まるまで待ってから購入するのか、どちらのほうがご自身に合っているのかは、シミュレーションをして毎月の返済額、総返済額の両方の面から検証するとよいでしょう。
住宅ローン控除では、条件を満たしたうえで年末時点の住宅ローン借入残高の1%が所得税と住民税の一部から控除されます。対象となる借入残高は最高4,000万円(認定長期優良住宅・認定低炭素住宅の場合は5,000万円)であり、控除額は年間最大で40万円(同50万円)です。
住宅ローンの借入金額が4,000万円(同5,000万円)を下回るかたの場合、頭金なしで住宅ローンを組むと借入金額が増えるため、住宅ローン控除をより利用できる場合があります。
また、利息の増加分を控除の増加分が上回る場合、借入金額を増やしたほうが有利となることがあります。控除期間中は繰上返済を控えて資金を貯め、控除期間終了後に繰上返済をすることで、控除を最大限受けながら全体としての負担を抑えることが可能となる場合があります。
ただし、住宅ローン控除は自身が支払う所得税額と住民税額の一部(136,000円または課税所得の7%のいずれか少ない金額)が限度であるため、控除可能額が大きくなっても、もともと支払う税額が満額に満たないかたは控除しきれないケースもありますので、確認しましょう。
住宅ローン控除の利用には諸条件があり、また上記のような計算は、ご自身の所得や家族構成などによって結果が左右されますので、詳細は税理士や管轄の税務署にご確認ください。
頭金なしで住宅ローンを組むことを検討する際は、次のような点に注意し、慎重に判断するようにしましょう。
金融機関や商品によっては、物件価格に対する頭金の割合によって借入金利が変わることがあります。
フラット35(借入期間21年〜35年)の金利は、頭金が物件価格の1割より大きい(融資率9割以下)場合が年率1.32%であるのに対し、頭金が1割以下だと年率1.58%となります(いずれも2020年9月時点のフラット35取扱金融機関の最頻出金利)。
フラット35を利用して購入価格3,000万円のマイホームを購入する場合、頭金なしの場合と頭金を1割(300万円)準備した場合では、返済額は次のような差があります。
適用金利 | 毎月の返済額 | 総返済額 | |
---|---|---|---|
頭金1割 (借入金額2,700万円) |
1.32% | 8.1万円 | 3,373万円 (頭金を含むと3,673万円) |
頭金なし (借入金額3,000万円) |
1.58% | 9.4万 | 3,908万円 |
(借入期間35年、元利均等返済、ボーナス返済なし、返済期間中の繰上返済なし。※住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用してSBIマネープラザが作成。手数料、その他の諸費用は計算に含まれていません)
頭金なしで住宅ローンを組む場合、借入金額が大きくなることに加え、金利も高くなるため総返済額はより大きくなります。
頭金の有無や金額によってどのくらいの差があるのか、頭金の準備期間にかかる家賃や住宅ローン控除額の増加など、軽減される負担も考慮したうえでシミュレーションを行い、実際に確認することが大切です。
頭金なしで住宅ローンを組むと毎月の返済額が増えるため、収入が減少したり支出が多く発生したりした場合、あるいは借入金利が上昇した場合など、返済ができなくなる可能性が高くなります。
例えば、生活環境が変わりリフォームが必要になった、勤めている会社の退職金制度が変わって繰上返済の予定に変更が生じた場合など、想定外のことが起こるときに対応しにくくなりますので、注意が必要です。
購入価格に対して借入額の割合が高いほど、返済期間中の住宅価格の下落などの原因で、住宅ローンの残債が住宅の時価額を超えた状態(担保割れ)になる可能性が高くなると言えるでしょう。担保割れの状態では、住み替えなどの理由で住宅を売却することとなった際に、売却代金で住宅ローンを完済できず、差額を手持ち資金でまかなうことになるため注意が必要です。
条件を満たせば頭金なしで住宅ローンを組むことができ、リスクが大きいですので、あくまで例えばですが、預貯金ゼロでもマイホームを購入できる場合があります。また、低金利や住宅ローン控除のメリットを活かすため、あえて頭金を入れず手元に資金を残すという考え方もあるでしょう。
いずれにしても、日々の生活費や将来必要となる教育費や老後資金といった資金の準備に支障がなく、収入の減少や急な出費があっても返済を続けられる計画を立てる必要があるでしょう。
計画を立てる際に、さまざまな条件で具体的にシミュレーションし、比較したうえで慎重に判断することが大切です。頭金の有無や金額によって借入条件や購入時期、毎月の返済額、返済期間全体での支払額がどう違ってくるのか、必要に応じてファイナンシャルプランナーや金融機関に相談してもよいでしょう。
こんなかたには店舗相談がおすすめです
SBIマネープラザの店舗では、住宅ローンに詳しいスタッフがわかりやすく説明します。ご予約することで待ち時間もなくご相談いただけます。
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