日本における生命保険の世帯加入率は88.7%で、平成6年の95.0.% (※)から比較すると緩やかに減少傾向ではあるものの、少なくともおよそ5世帯のうち4世帯は何らかの保険に加入していることになります。これほど私たちにとって身近な生命保険ですが、ご自身のライフプランの変化などにより、生命保険の新規加入や見直しを検討する際に「どのように考えるべきか分からない」と悩まれる方は少なくないでしょう。
今回は株式会社家計の総合相談センターでFP(ファイナンシャルプランナー)として活躍中の尾上 堅視 先生に、FPの現場でよくある生命保険にまつわる相談事例について伺いました。
※生命保険文化センター 「平成30年度 生命保険に関する実態調査」生命保険・個人年金保険の世帯加入率(全生保)
★お話を伺ったかた★
2005年に自分の老後不安から投資をスタート。あわせて資産運用を身近なものにするためのサイト「かえるの気長な生活日記。」を立ち上げ、資産運用を長く続けていくための情報を個人投資家目線で発信中。2009年にはサイトをきっかけに、投資信託・投資にまつわる証券会社・運用会社の取材記事などのライターを務める。2010年より家計の総合相談センターの相談員・ファイナンシャルプランナーとして、個人投資家の金融リテラシー向上のため、お金と仲良くおつきあいする方法を、セミナー・コラムなど通じて活動中。
<著書・監修>
あたりまえだけど誰も教えてくれない お金のルール(アスカビジネス)、 はじめての積立て投資1年生(アスカビジネス)
マネープラザONLINE 担当K(以下担当K))
本日のテーマは「FP相談の現場でよくある生命保険にまつわる相談事例」です。生命保険のご相談というと、すでに加入している毎月・毎年の保険料を抑えるなどの「見直し」のイメージがあるのですが、これまで保険に加入していなかった方が、新たに検討されるケースもあると思います。どういった方がご相談にいらっしゃいますか?
尾上先生)
みなさんのご想像通りかもしれませんが、ご結婚や出産などをきっかけに相談に来られる20〜30代前半のお客様が多いですね。すでに保険に入っている方でも、「独身時代に加入した保障のままで良いのか?」などについて結婚を機に確認される方が多いです。共働きでお子さんがいらっしゃらないと、独身時代のままの保険を継続した方が良い場合もありますが、お子さんの教育費準備や住宅購入など、比較的大きなお金が関わるライフイベントが想定される場合は、それに合わせて生命保険を見直した方が良い場合も多いです。
担当K)
やはり結婚、出産など家族の形が変わるタイミングが、生命保険について考えるきっかけになるということですね。それ以外に「生命保険について考えてほしい」というタイミングはありますか?
尾上先生)
ライフイベントの変わり目という意味では、働き方が変わった場合にも生命保険のことを思い出してほしいですね。例えば会社員から個人事業主・フリーランスになった時などは、受けられる社会保障(健康保険や公的年金など)が大きく変わりますから、自分で備える生命保険は是非見直していただきたいです。
担当K)
会社員の方と個人事業主・フリーランスの方では、具体的にどのように社会保障が異なるのでしょうか?
尾上先生)
会社員と個人事業主を比較すると、会社員の方が受けられる社会保障は大きいと言えます。例えば、会社員が病気で働けなくなってしまった場合、原則として加入している健康保険から傷病手当金が受け取れます※。傷病手当金によって給与のおよそ2/3は原則保障されるため、いきなり収入がゼロになることはありません。一方、個人事業主の場合はそういった保障がありませんので、収入が途絶えてしまう可能性があります。健康保険での保障が手薄になっている分、個人での備えが重要性を増すはずです。また、万が一ご自身が亡くなった場合に遺された家族が受けられる保障にも違いがあり、こちらも会社員の方が保障は充実しているのが現状です。
私自身も会社員から個人事業主・フリーランスになった時、社会保障の違いに驚きました。同じ境遇の方はぜひ、ご自身が受けられる社会保障を理解し、上乗せとしてご自身でどう備えるかを慎重に考えていただけると良いと思います。
※)受給には複数の要件があります。詳細は健康保険のウェブサイト等でご確認ください。
担当K)
社会保障などについては普段は意識しない方が多いと思いますので、こういったタイミングで社会保障や生命保険の理解を深めておくと良さそうですね。
担当K)
では、生命保険について具体的にどういったご相談が多いかお聞かせいただけますか?
尾上先生)
ご夫婦のご相談で多いのが、「どれくらい死亡保障を準備するべきか、適切な保障額を知りたい」というご相談です。死亡保険に限らず、その方に合う保障額は受けられる社会保障や金融資産、持ち家の有無などによって大きく異なり、さまざまな要素が複合的に絡み合っています。そのため、例えばインターネット上で公開されている保障の目安や世帯平均などの金額は、実はあまり意味を持ちません。お客様のご状況を詳しくお伺いし、整理し、必要保障額を算出することが生命保険選びには欠かせないステップです。
生命保険のご相談というと、生命保険の「商品」についてお話をしているイメージを持たれる方も多いと思いますが、現状分析やマネープランニングの立案などの下準備がとても重要で、多くの時間を使います。この部分を丁寧に行うことで、大変スムーズに生命保険を選べるようになります。
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担当K)
確かに、先ほどの例のように社会保障なども含めますと、自分で情報収集・整理するのは大変ですよね。知識を持ったFPに相談できれば安心できそうです。
また、単身の方の場合はどうでしょうか?
尾上先生)
「大きい病気への備え(治療費や就業不能状態への備え)」や「介護への備え」に関するご相談が増えていると思います。
ご相談のきっかけは様々ですが、周囲でガンなどの大きい病気にかかったかたがいらっしゃり、経済的に難しくなっている状況を目の当たりにしたことで、ご自身も心配になって備えを検討するというケースが少なくありません。またご両親の介護をきっかけに、ご自身の介護について考えるようになり、備えを検討したいというお客様も多くいらっしゃいます。
生命保険の必要性は感じつつも後回しにしている方にとって、そういった身近な出来事が「備え」を検討する大きなきっかけになっているようですね。どんなきっかけであれ、ご自身の現在と将来のリスクと正しく向き合うことは、貯蓄や資産形成をする上でも重要なはずですから、FPとしてその想いに応えたいと思っています。
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担当K)
そうですね。生命保険の重要性は、日々の生活を送る中では気づきにくいかもしれません。相談を通して、最終的にお客様はどんな気づきを得ていらっしゃいますか?
尾上先生)
生命保険には専門用語もありますので、これまでは曖昧だった商品性を理解できた、といったお声をまず頂戴します。ですがそれ以上に「社会保障や税金などの周辺知識に触れられてよかった」といったお声を多く頂きますね。先ほどもお伝えした通り、死亡や医療、介護に備える手段は生命保険だけではありません。まず前提として社会保障があり、会社勤めであれば会社で受けられる保障もあります。もしそれらの保障で不足があれば、生命保険を上乗せしてリスクに対して備えるわけですから、社会保障などの知識が不可欠です。これらは学校でも学ぶ機会が少ない分野ですから、生命保険の相談を通して知っていただくことは価値があると思っています。
また「漠然とした不安と向き合えた」といったお声もよく頂戴します。例えば「もし病気になってしまったらどうしよう」と不安に思っている方には、「具体的にはどういった不安があるか?」をお伺いするようにしています。ご家族の不安、仕事の不安など、それらを紐解いていくことで、金銭的にもし備えるにはどうしたら良いか?が考えやすくなるからです。漠然とした不安のままでは、どの程度備えをしたら安心できるかがわかりません。客観的視点を持っているFPに相談する意味が、こういった点にもあると感じますね。
担当K)
生命保険の相談は、現在および将来の人生に関わる相談でもあるということですね。ライフプランが変わるタイミングで、ぜひ私も相談してみたいと思いました。今回は貴重なお話をありがとうございました。
尾上先生)
ありがとうございました。
家計の総合相談センターとは
「すべての人が情報や知識を持って幸福に生活できる手助けをしたい」という共通のビジョンのもと、FP(ファイナンシャルプランナー)や社労士、税理士などの「お金のプロ」が集まって設立された会社です。家計、貯蓄、資産運用、生命保険、住宅ローン、相続などのお金にまつわるさまざまなお悩みを総合的にご相談いただけます。