全期間固定金利型の住宅ローン「フラット35」の利用を検討する場合や、省エネルギー性の高い住宅の購入を検討する場合などにおいては、通常のフラット35よりも借入金利を一定期間引下げられる「フラット35S」についても知っておくとよいでしょう。
今回は、フラット35Sを利用するとどのような優遇があるのか、また利用のためにはどのような条件があるのか、株式会社住宅相談センターの吉田貴彦社長に解説していただきました。
まずは、フラット35Sの制度概要と、金利Aプラン・Bプランの2つのプランの違いを解説します。
フラット35Sは、独立行政法人住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供する全期間固定金利型の住宅ローン「フラット35」の制度の一つです。省エネルギー性など技術水準のレベルが一定以上の住宅を購入するときに利用することができます。
定められた条件を満たすことで、フラット35の借入金利を基準として借入当初から一定期間、金利引下げを受けることができます。引下げ期間が終了した後の返済期間は、通常のフラット35の金利が完済まで適用されます。なお、借入金利は取扱金融機関によって異なります。
フラット35Sには2つの金利プランが用意されています。
金利Aプラン:借入当初から10年間の借入金利が引下げられます。
金利Bプラン:借入当初から5年間の借入金利が引下げられます。
Aプランのほうが引下げ期間が長い分、求められる住宅の技術基準はより高い条件が求められます。それでは次の章からは、それぞれの条件について確認してみましょう。
フラット35Sは融資対象住宅がフラット35の技術基準を満たすことに加えて、下記の要件を満たす必要があります。
金利Aプランの対象住宅は、省エネルギー性、耐震性、バリアフリー性、耐久性・可変性のうち、いずれか1つ以上の基準を満たす必要があります。
なお、基準に使われている等級表示は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく住宅性能表示制度の性能等級に従います。
【新築住宅・中古住宅共通の基準】
次表の(1)から(4)までのうち、いずれか1 つ以上の基準を満たす住宅であること。
項目 | 基準 |
---|---|
省エネルギー性 | (1)住宅性能表示制度の一次エネルギー消費量等級5の住宅 (認定低炭素住宅および性能向上計画認定住宅を含む) |
耐震性 | (2)住宅性能表示制度の耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)3の住宅 |
バリアフリー性 | (3)住宅性能表示制度の高齢者等配慮対策等級4以上の住宅 (分譲マンション等の専用部分は等級3でも可) |
耐久性・可変性 | (4)「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」によって規定される 長期優良住宅 |
(出所:住宅金融支援機構ホームページより)
金利BプランはAプランより求められる性能のレベルが緩和されています。
【新築住宅・中古住宅共通の基準】
次表の(1)から(6)までのうち、いずれか1つ以上の基準を満たす住宅であること。
項目 | 基準 |
---|---|
省エネルギー性 | (1)住宅性能表示制度の断熱等性能等級4の住宅 (2)住宅性能表示制度の一次エネルギー消費量等級4以上の住宅 ※2021年1月以後に設計検査申請等を行う場合は、断熱性能等級4の住宅で、かつ、一次エネルギー消費量等級4以上の住宅であることが必要となります。 |
耐震性 | (3)住宅性能表示制度の耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上の住宅 (4)免震建築物 |
バリアフリー性 | (5)住宅性能表示制度の高齢者等配慮対策等級3以上の住宅 |
耐久性・可変性 | (6)住宅性能表示制度の劣化対策等級3の住宅で、かつ、維持管理対策等級2以上の住宅 (分譲マンション等については、一定の更新対策が必要) |
(出所:住宅金融支援機構ホームページより)
【中古住宅の基準】
次表の(1)から(4)までのうち、いずれか1つ以上の基準を満たす住宅であること。
項目 | 基準 |
---|---|
省エネルギー性 | (1)二重サッシまたは複層ガラスを使用した住宅 |
耐震性 | (2)住宅性能表示制度の建設住宅性能評価書の交付を受けた住宅(省エネルギー対策等級2以上または断熱等性能等級2以上)または「中古マンションらくらくフラット35」のうち、【フラット35】S(省エネルギー性〔外壁等断熱〕に適合するもの)として登録された住宅 |
バリアフリー性 | (3)浴室および階段に手すりを設置した住宅 |
耐久性・可変性 | (4)屋内の段差を解消した住宅 |
(出所:住宅金融支援機構ホームページより)
表中の「中古マンションらくらくフラット35」とは、すでに物件検査を受けている中古マンションをweb上で検索することができる、住宅金融支援機構のサービスです。ここに登録されている中古マンションは技術基準に適合している物件検査を受けているので、適合証明発行の手続きを簡素化することができます。
各金利プランの技術基準は以上です。実際にフラット35Sを利用する場合に、対象住宅がどの基準に該当するかは、物件検査機関や適合証明技術者による検査を受けて、適合証明書の発行をもって確認されます。
適合証明書については、こちらの記事(「フラット35の利用時に必要な適合証明書とは?」取得方法と注意点)もご覧ください。
続いて、フラット35Sのメリットと利用時の注意点について見てみましょう。
フラット35Sのメリットは、通常のフラット35の借入金利から一定の金利引下げを受けられることです。10年間または5年間にわたり借入金利が下げられるため、支払う利息額が少なくなります。
【フラット35の各金利プランの比較】
フラット35の各金利プランによって返済額がどのくらい変わるかを比較してみましょう。
<計算条件>
借入額:4,000万円
返済期間:35年
返済方法:元利均等返済、ボーナス返済なし
フラット35の金利:1.40%、引下期間中の金利:1.15%
商品タイプ | 毎月の返済額 (引下げ期間中) |
毎月の返済額 (引下げ終了後) |
総返済額 | フラット35との総返済額の差額 | |
---|---|---|---|---|---|
フラット35 | 12.1万円 | 12.1万円 | 5,062万円 | ― | |
フラット 35S |
Aプラン | 11.6万円 (10年間) |
12.0万円 | 4,962万円 | 100万円 |
Bプラン | 11.6万円 (5年間) |
12.0万円 | 5,008万円 | 54万円 |
(住宅金融支援機構のシミュレーションツールを使用してSBIマネープラザが作成)
通常のフラット35とフラット35S金利Aプランを比較すると総返済額で100万円、金利Bプランとの比較では54万円少なくなることが、上記のシミュレーションからわかります。購入物件がフラット35Sの基準を満たす場合には、積極的にフラット35Sを利用するとよいでしょう。
また、省エネ設備やバリアフリー設備の設置を迷っている場合では、フラット35Sの金利引下げ制度があることで設置を決断できることもあるでしょう。
>>フラット35S以外にも金利を引下げる方法がある? 詳しく話を聞いてみる
①借換えには利用できない
通常のフラット35は、住宅ローンの借換えにも利用することができますが、フラット35Sは住宅購入時にしか利用することができません。
②予算金額の枠が設定されている
フラット35Sは住宅金融支援機構が定めた予算金額の枠の中で利用できるものです。予算金額に達する見込みとなった場合、受付が終了し新規の申込みができなくなります。受付終了については3週間前までに住宅金融支援機構のフラット35公式ホームページで告知されます。
③金利引下げ期間終了後の返済計画も視野に入れる
フラット35Sは、金利Aプランでは返済開始当初から10年間、Bプランでは5年間の金利引下げが受けられますが、その期間が終了すると通常の金利が適用され返済額がアップします。利用にあたっては、引下げ期間終了後の返済額も確認し、無理なく返済できるように計画を立てておきましょう。
④購入物件が高額になりがち
フラット35Sを利用する場合、通常のフラット35より高いレベルの技術基準を満たす住宅でなければならないので建築費・購入価格が高くなることが考えられます。結果的に総返済額が増えることもあり得るので注意しましょう。
>>他にも住宅ローンのことで不安があれば店舗でご相談できます
フラット35Sを利用できる性能の高い住宅を取得すると、金利以外にも間接的なメリットが生まれることがあります。
例えば、省エネルギー性の基準を満たせば、年間の光熱費が一般の住宅と比較して安くなるというメリットが生じ得ます。また、耐久性・可変性の基準を満たせば、将来の修繕などの費用が少なくて済むなど、入居後のコストを減らせることを期待できます。
さらに、長期優良住宅なら住宅ローン控除の控除額が一般の住宅と比較して大きくなっており、固定資産税等の減税期間も長くなるので、仮に借入金額が増えたとしても総額で考えると負担が軽くなることもあります。
このようにフラット35Sの対象となる住宅では、総合的に見てメリットが出ることが考えられますので、「住宅価格が高くなるから」と敬遠せずに、様々な面から検討してフラット35Sの利用を視野に入れるとよいでしょう。
こんなかたには店舗相談がおすすめです
SBIマネープラザの店舗では、住宅ローンに詳しいスタッフがわかりやすく説明します。ご予約することで待ち時間もなくご相談いただけます。
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