老後はマンションと戸建てのどちらに住む? 先を見据えた家選びのコツ

老後が近づくと、セカンドライフのお住まいについて具体的に考え始めるかたもいらっしゃるでしょう。例えば、老後は郊外に移住してゆっくり過ごしたい、今住んでいる家が広すぎるのでマンションに住み替えたい、などの希望をお持ちのかたもいらっしゃるのではないでしょうか。

老後の住み替えを考える場合、将来を見据えて検討する必要があります。住まいの選び方のポイントを知っておくと、老後の暮らしをより安心で快適に過ごせるでしょう。

今回は、住まいを選ぶ際の重要なポイントの一つとして、老後の住まいをマンションとするのか、戸建てとするのか、その選び方のコツについて、現在ご活躍中のファイナンシャルプランナーにお話を伺いました。

1.老後の暮らしや住まいに関する平均データ


まずは、老後の暮らしや住まいについての統計をご紹介します。高齢者の平均的な所得や貯蓄など、様々な平均データを確認することで、老後の住まいについて考える際の材料としましょう。

1-1.高齢者の平均所得額や貯蓄の傾向

厚生労働省による2019年の「国民生活基礎調査」では、高齢者世帯(※)の平均所得は年間約312.6万円となっています。詳しく世帯主の年齢ごとにみていくと、世帯主が60~69歳の家庭では、1世帯当たりの平均所得額は年間約566.0万円で、1人当たりの平均所得額は年間約239.5万円です。

※高齢者世帯とは、65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯をいう。

一方、世帯主が70歳以上の家庭になると、1世帯当たりの平均所得額は約394.6万円まで下がります。そして、1人当たりの平均所得額は年間約190.1万円となっています。老後は年齢を重ねるごとに収入が減りやすい点を考慮し、資金計画を立てておくことがポイントになるでしょう。

また、世帯主が60歳以上の家庭の約4割が「貯蓄が減った」と回答していることから、生活費を貯蓄から捻出しているケースも多いということがわかります。

生活意識では、苦しいとやや苦しいと回答している高齢者が約半分に達しています。老後の暮らし方を事前にイメージし、豊かな老後を送れるよう貯蓄などを計画的に準備する必要があるでしょう。

高齢世帯の生活意識

出典:厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況」を基にSBIマネープラザが作成

1-2.持ち家で暮らす高齢者の割合

総務省統計局による2018年の「住宅・土地統計調査」によると、高齢者のいる世帯の約82.1%が住宅を所有しています。なお、高齢単身世帯の場合は、持ち家の割合が約66.2%となっています。全体的に、高齢者は賃貸よりも持ち家にお住まいのケースが多くなっています。

ただし、持ち家と賃貸のどちらが適しているかは、人によって異なります。老後の暮らしを具体的にイメージし、決めることをおすすめします。

出典:総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査 調査の結果」

2.老後の住まいの選択肢|マンションと戸建ての比較


住まいの選択肢としてマンションに住むか戸建てに住むか、というテーマがあります。老後の住まいとして、マンションと戸建てどちらが自分に合っているのかを考えるには、両者の特徴を把握し、比較検討することが大切です。

この章では、マンションと戸建てそれぞれの特徴をみていきます。

2-1.マンションの特徴

2-1-1.階段の昇降が少ない

マンションは室内に階段がない物件が多いため、部屋の間の移動が負担になりにくいでしょう。バリアフリー化されたマンションなら、高齢者にとってさらに移動が楽になります。消費者庁の資料によると、高齢者のけがは転倒や転落が年々増加傾向にありますが、バリアフリー化されたマンションは段差を少なく、小さくするよう配慮されていることが一般的であり、自宅での転倒によるけがの減少を期待できます。

また、エレベーター付きの物件を選べば、高層階に住んでいても外出しやすいでしょう。

2-1-2.メンテナンスの手間がかかりにくい

マンションでは、共用部分のメンテナンスは管理組合などが行うため、外壁や屋根、庭などを自分で管理することが不要となる場合があります。そのかわり、分譲マンションの場合は管理費や修繕積立金を管理組合などに支払う必要があります。

2-1-3.セキュリティがしっかりしている物件がある

物件によりますが、マンションは管理人が常駐していることもあります。また、オートロックになっている物件もよくみられます。戸建てと比べると、自分で警備会社を探して契約するなどのセキュリティ面の手間が少なくなります。老後、セキュリティの面でより安心して暮らしたいかたには、こういったマンションは魅力的でしょう。

2-2.戸建ての特徴

2-2-1.騒音が気になりにくい

戸建ては集合住宅と比較して、生活音が響きにくいため、老後は静かに暮らしたいというかたにはおすすめです。ただし、隣の家との距離によっては大きな声や騒音が気になることもあるので注意しましょう。

2-2-2.土地を残せる

持ち家の場合は、土地も資産として残せます。さらに、家が古くなっても建て替えて同じ場所に住み続けられることが特徴です。

また、建て替えしやすい戸建てのほうが、子どもが将来土地を相続した際などの場合に、活用しやすいといえます。なぜなら、親世代が土地を所有しているため建替費用のみで子世代が新たに土地を購入する費用はかからないからです。また、2世代住宅を建てて子世代と一緒に暮らすなどの活用方法も考えられます。

3老後の住まいの選択肢|持ち家と賃貸の比較


老後の住まいを考える場合、老後生活が変化したときをイメージしてみることも大切になります。例えば、介護が必要になった場合、家族に介護してもらうのか、あるいは施設に入るのかなどを検討すると、持ち家と賃貸でどちらのほうが自分に合うのかイメージしやすくなるでしょう。

ここでは、持ち家と賃貸の特徴を見ていきます。持ち家と賃貸の特徴を比較し、自分に合うスタイルを見極めると良いでしょう。

3-1.持ち家の特徴

3-1-1.住宅ローン完済後の出費を抑えられる

現役時代に購入し、住宅ローンを払い終えていれば住宅費が抑えられます。老後生活の収入源は主に年金となりますので、定年を迎えるまでに支払いを終えておくと安心でしょう。なお、固定資産税をはじめとする税金や、修繕費などの支払いが発生する点は考慮しておく必要があります。

3-1-2.資産として保有できる

持ち家の場合は、必要なくなったときに売却できる可能性があります。ただし、購入したときよりも高く売れるとは限らないので、マイホームを買うときに、資産価値について専門家に相談するのもひとつの方法です。さらに、持ち家を活用して老後の資金調達ができるリバースモーゲージやリースバックなどを活用できる可能性があります。

リバースモーゲージとは、持ち家を担保に銀行等の金融機関からお金を借り、利息のみ毎月返済して、契約者が亡くなったときに家を売却するか相続人が一括返済するかどちらかになるものです。

一方、リースバックとは持ち家をリースバック運営会社に売却し、その会社と賃貸借契約を結び、売却した家に住み続けることです。

一般的な売却の他にこのような手段があるので、老後の生活資金や余裕資金などについて検討することになった場合は、専門家に相談することも考えましょう。

3-2.賃貸の特徴

3-2-1.相続にまつわる問題が少ない

賃貸の場合は、複数の相続人の持分をどうするかという問題や、相続人が管理しなければならないという問題が起きません。一方で、家を資産として残すことはできない点に留意しましょう。

3-2-2.持ち家よりも住み替えしやすい

ライフスタイルの変化に柔軟に対応しやすくなるという点が特徴です。例えば、収入が下がるので固定費を下げたい、足腰が弱くなったので利便性を高めたいといった希望を叶えるために引っ越しをすることも、持ち家より行いやすくなります。

3-2-3.リフォームすることが難しい

一般的な賃貸物件は、バリアフリー化や設備交換などが自由にできません。ライフステージなどに応じて住まいを作り変えていきたい人には向かないようです。しかし、近年ではリフォーム工事が可能な賃貸の物件も目にします。入居前や入居後にリフォームをしたいと考えるかたは、根気よく調べてみましょう。

4.老後の暮らしを見据えた住み替えのコツ


老後の住み替えを検討する際は、老後どのように暮らしたいのかを考えて、老後の生活をイメージすることが大切です。住み替え後は夫婦だけで暮らすのか、介護が必要になったときはどうするのかなど具体的に考えてみましょう。

ここでは、老後の暮らしを見据えた住み替えのコツについて解説します。

4-1.老後資金を把握する

住み替えを検討するうえで、年金収入や貯金の額を試算し、老後資金をどの程度用意できるか確かめておくと良いでしょう。老後の生活を考える際は、生活費だけでなく、医療費や介護費なども考慮することが大切です。さらに、住み替えによる経済的な負担、例えば貯金を使って持ち家を購入した場合に、どのくらいの貯金が残るのか、残った貯金と年金で生活できるのかなど、詳細な資金計画をたてておく必要があります。結果によっては、計画の立て直しや、希望する住み替えかたの変更を検討しなければなりませんが、非常に重要なことです。

4-2.住み替えるタイミングに注意する

老後の住み替えのタイミングとしては、主に子どもの独立、定年、介護など、ライフスタイルが変化するときが考えられます。

住み替えのタイミングで注意したいのは、老後に賃貸物件へ住み替える場合です。高齢者が新たに賃貸借契約を結ぶ場合、年齢によっては断られるケースもあるようです。(公)日本賃貸住宅管理協会によると高齢者の入居に拒否感がある大家さんは約8割というデータがあります。

高齢者は、賃貸の審査が厳しい状況もあり、賃貸に住み替えの年齢が審査に関係していることがわかります。

住宅確保要配慮者の入居に対する大家の意識

出典:国土交通省住宅局「家賃債務保証の現状」を基にSBIマネ―プラザが作成

一方、近年ではシニア世代歓迎の賃貸物件や補助金制度のある高齢者向け優良賃貸住宅、サービス付き高齢者向け住宅などがあり、一般の賃貸物件で入居が難しい場合でも借りられる可能性もあります。

また、住み替えのため住宅ローンを利用したい場合、一般の住宅ローンを利用できるのか、リバースモーゲージなどの高齢者向けのローンを利用できるのか、年齢によって選択できるものが異なることがあります。

このように、賃貸の場合も持ち家の場合も、住み替えのタイミングや年齢によって、利用できる物件や住宅ローン商品が異なることに注意しましょう。

なお、国土交通省の資料によると、住宅を2回目以降に取得した世帯主の平均年齢は以下の結果の通り50代となっており、老後の生活のために住み替えで取得したかたが多いと推測されます。住み替えのタイミングは定年前が多いようです。

世帯主の年齢 二次取得者

出典:国土交通省住宅局「令和元年度住宅市場動向調査報告書」を基にSBIマネ―プラザが作成

4-3.間取りや設備にも着目する

シニア世代の暮らしやすい間取りを選ぶことをおすすめします。家事動線が良く、室内での移動距離が少ない間取りだと暮らしやすいでしょう。食洗機のように、家事負担を軽減できる設備があるとさらに良いかもしれません。

4-4.住環境も確認する

老後の生活は、病気やけが、介護などにも注意が必要になります。さらに、高齢になるにつれ車の運転も難しくなるため、病院が近い場所や買い物がしやすい場所、公共交通機関が便利な場所の方がより安心でしょう。

5.介護の生活も見据えて考えておこう


住み替えするには、持ち家か賃貸か、マンションか一戸建てか比較してきました。それぞれの特徴がわかっていただけたかと存じます。

最後に、老後の生活を誰と送るのか、介護が必要になった場合どうするのかなど、家族とよく話し合って決めておくことをおすすめします。なぜなら、状況によっては、経済的な負担や介護の負担を家族にかけることも考えられるからです。

要介護者等との続柄別主な介護者の構成割合      

出典:厚生労働省「2019 年 国民生活基礎調査の概況」を基にSBIマネ―プラザが作成

老後の生活は介護などの理由によって将来的にライフスタイルが変化することを見据え、自分に合った物件を選びましょう。

タイトル

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  • 髙杉 雅紀子

    ファイナンシャルプランナー

    生命保険会社を約8年勤務後、住宅建築の建設会社に16年勤務。現在も建設会社で住宅取得資金や住宅ローンアドバイスを行う。さらに、ファイナンシャルプランナーとして教育資金や自営業者の老後資金、保険見直しなどのアドバイスを行っている。主婦・母・自営業の嫁・親の介護の経験を活かし、相談を受けている。
    【保有資格】AFP/2級FP技能士/住宅ローンアドバイザー


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