住宅ローン選びの際は、金利水準や金利タイプ、団体信用生命保険など、決めなければならないことがいくつかありますが、前提として借入金額が適正である必要があります。
いくら住宅ローン選びがうまくいっても、借入金額を間違うと、長期にわたって返済を続けなければならず、必要な貯蓄ができない、または返済自体が困難になるなどのリスクが生じます。
国土交通省が令和4年に実施した、住宅ローンの返済負担感の調査があります(図表1)。
図表1
非常に 負担感がある |
少し 負担感がある |
あまり 負担感はない |
全く 負担感はない |
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注文住宅 | 7.7% | 57.5% | 28.3% | 5.8% |
分譲戸建住宅 | 11.6% | 50.5% | 28.8% | 5.6% |
分譲集合住宅 | 4.7% | 46.5% | 36.6% | 8.1% |
中古戸建住宅 | 7.1% | 47.6% | 33.5% | 10.6% |
中古集合住宅 | 6.3% | 48.1% | 34.8% | 9.5% |
※注文住宅のみ全国、それ以外は3大都市圏が対象
概ね5~6割の方が、住宅ローン返済について「非常に負担感がある」「少し負担感がある」と答えています。住宅ローン返済の負担が大きすぎると、何のための住宅購入であったかともなりかねません。
この記事では、住宅ローンの適正な負担の範囲を知るために、年収別の住宅ローン借入金額の目安や、借入金額を決める際の注意点について解説します。
住宅ローンの借入金額を考える基準として、「年収倍率」と「返済負担率」があります。
それぞれを用いた借入金額の目安について解説します。
図表2は、世帯年収に対する所要資金の倍率の平均を物件種別ごとにまとめたものです。
図表2
建物種別 | 年収倍率 |
土地付注文住宅 | 7.7倍 |
マンション | 7.2倍 |
建売住宅 | 6.9倍 |
注文住宅 | 6.9倍 |
中古マンション | 5.9倍 |
中古戸建 | 5.7倍 |
出典:独立行政法人住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」
この結果は住宅ローン借入金額に対するものではなく、自己資金なども含めた住宅購入の所要資金に対する年収倍率ですが、借入金額の目安として参考になります。一般的に、住宅ローン借入金額は、年収の5~7倍が1つの目安とされています。
年収倍率は、過去10年間の調査結果を見ても増加傾向にあります。これは、材料費や人件費を含めた不動産価格の上昇、これまでの金融緩和政策を背景とする低い金利水準などが要因として考えられます。
住宅を購入するための所要資金は増加傾向にあるため、無理のない資金計画、借入金額をしっかりと検討することの重要性が増しています。
同じく年収を基準とするものの、年収倍率とは異なる基準に返済負担率があります。返済負担率とは、年収に対して住宅ローンの年間返済額が占める割合を意味し、金融機関の住宅ローン審査においても重視される項目の1つです。
返済負担率(%)=(1年間の住宅ローン返済額÷年収)×100
年収倍率とは異なり、返済期間や借入金利など、住宅ローン選びの条件を反映させることができるので、一人ひとりに適した目安がわかりやすい基準といえます。
無理なく返済を続けるための目安となる返済負担率は、一般的に20~25%程度といわれています。
なお、金融機関の審査では、住宅ローン返済以外に車や携帯電話の分割払いなど、ほかの支払いも含めて返済負担率を判断します。
適正な借入金額を考える際にも、住宅ローン以外の借入について、完済できるものはないか、返済があと何年続くかなどを含めて、返済負担率を判断するようにしましょう。
ここでは、年収倍率、返済負担率をもとに、年収別の住宅ローン借入金額の目安を算出しました。試算条件は、返済期間35年(元利均等返済)、金利1%としています。
年収倍率の目安(5~7倍)ならびに返済負担率の目安(20~25%)に基づいて借入金額の目安、毎月の返済額(ボーナス返済なし)を計算すると以下の通りになります(以下、他の年収も同様)。
年収ごとの借入金額の目安には幅がありますが、毎月の返済額を含め、資金計画を立てる参考にしてみてください。
年収別の住宅ローン借入額の目安をご紹介しましたが、一人ひとりの状況に合った、より適正な借入額を知るための注意点があります。
住宅ローンの返済負担をできるだけ抑えつつ、安定的に返済を続けたい方は、額面年収ではなく手取り年収をもとに借入金額を検討すると良いでしょう。
手取り年収とは、会社から支給される給与総額から税金や社会保険料を差し引いた金額を指し、額面年収や扶養家族の数などによって違いはありますが、額面年収のおよそ70~80%程度です。
実際には手取り収入から住宅ローン返済に充てる金額を差し引き、残った金額を生活費や貯蓄などに回すことになるため、家計に対する住宅ローンの負担を具体的にイメージしやすくなります。
適切な借入額であるかは、家計の状況によっても異なります。年収倍率や返済負担率の目安内に収まる借入額であっても、収支の状況は一人ひとり異なるため、ローン返済の負担感も違ってきます。
例えば、同じ収入でも、お子さまの人数によって食費や教育費の支出は異なります。また、車を保有しない都心部の世帯と車を複数台保有する郊外の世帯では、車の維持費や交通費なども異なるでしょう。
同じ年収でも、支出が多い家計の場合はローン返済の負担が重くなりやすい点を踏まえ、無理のない範囲で借入額を決めることが望ましいといえます。
共働き世帯が年々増加していますが、収入合算を利用して住宅ローンを組む場合にも注意が必要です。
収入合算とは、住宅ローンの主契約者の収入に配偶者や同居の父母などの収入を合わせることです。金融機関は収入をベースに貸付金額を決めるため、収入合算によって借入できる金額が増える、借りやすくなるなどのメリットがあります。
ただし、収入合算を利用して借入をする場合、一方が働けなくなるリスクも考える必要があります。
住宅ローンの返済は長期にわたるため、その間に出産や育児、身体的・精神的な理由による休職、会社の事業不振などから収入が減少するケースは珍しくありません。一方の収入が減少しても返済を継続できる借入額に抑えることが望ましいといえます。
なお、2人の収入を合わせて住宅ローンを組む方法としては、収入合算以外にペアローンもあります。収入合算との違いは、同一の物件に対してそれぞれが契約者となり、2本の住宅ローンを契約する点です。
ペアローンではそれぞれが住宅ローンの契約者になると同時に、お互いが相手の債務の連帯保証人となりますので、収入合算と同様に一方の収入が減るリスクを考える必要があります。
年収倍率や返済負担率から住宅ローン借入額の目安を知ることはできます。ただし、住宅を購入する年齢や家族構成、家計の支出状況はそれぞれ異なりますので、手取り収入から返済負担を考えてみる、家計の状況をあらためて見直してみることが必要です。
また、ほとんどの金融機関は、住宅ローン審査において、借入時の年齢や完済時の年齢を重視しています。※年齢によってリタイアまでの期間や現役中に得られる収入が異なりますので、長期の視点で考えてみると、住宅ローン返済の負担感は変わってくるでしょう。
そのため、ライフプランなどを作成し、長期の視点で家計の収支や貯蓄推移などを試算してみるのも1つの方法です。あなたにとっての適正な借入額を知るための参考にしてみてください。
株式会社あつみ事務所 代表
建設会社・ハウスメーカーで建築設計、不動産売買仲介を経て、不動産・住宅専業ライターとしても活動。これまで不動産・金融メディアを中心に300本以上の記事執筆を手掛ける。現在、不動産売買や住み替えを中立的な立場でサポートするサービスを提供しながら情報発信を行う。
【保有資格】宅地建物取引士・ファイナンシャルプランナー2級技能士・住宅ローンアドバイザー