家を買う際の予算や資金計画は、自己資金に加え、住宅ローンをいくら借りるかによって変わります。
「収入に対してどれくらいの借り入れができるのだろう?」
「固定資産税などの維持費も考えると、借入金額はどれくらいに抑えるべき?」
住宅ローンを借り入れる際は、金融機関から借り入れできる「借入可能額」だけでなく、一人ひとりが無理なく返済できる「適正な借入金額」を考える必要があります。
この記事では、年収700万円の場合の住宅ローン借入可能額と適正な借入金額の違いをお伝えするほか、金利タイプや返済計画を検討する際の注意点について解説します。
住宅ローンの借入可能額は金融機関の審査によって決まりますが、審査基準は金融機関によって異なります。
ここでは年収700万円の場合を想定し、金融機関の審査基準からみた借入可能額と、年収倍率からみた借入可能額の目安について解説します。
住宅ローンの借入可能額は、各金融機関が設ける審査基準によって異なります。金融機関の審査では、さまざまな項目によって総合的に審査されますが、なかでも借入可能額の目安となる基準として、返済負担率(上限)と審査金利があります。
返済負担率とは、住宅ローンやその他借り入れを含めた1年間の総返済額が年収に対して占める割合をいいます。車や教育ローンなどがあれば、それらを含めて返済負担率は判断されます。返済負担率の目安を30~40%程度としている金融機関が多く、借入者の年収によっても違いが設けられています。
また、審査金利とは、金融機関が審査のために設けている金利のことで、金利が上昇した場合を想定し、実行金利(借り入れ時に実際に適用される金利)よりも高く設定されています。一般的に3~4%程度に設定している金融機関が多いでしょう。
これらを踏まえ、例えば返済負担率(上限)35%、審査金利3.5%の金融機関の場合、年収700万円での借入可能額はおよそ4,940万円となります。
※試算条件:返済期間35年・元利均等返済・住宅ローン以外の借り入れなし
ただし、金融機関が融資する際に考慮する項目は年収だけでなく、借入時・完済時の年齢、健康状態、勤続年数、担保評価などさまざまであり、それらを総合的に審査したうえで借入可能額が決まります。
そのため、年収と返済負担率、審査金利だけで決まるわけではないことを覚えておきましょう。
上記のとおり、借入可能額は各金融機関の審査基準によって変わりますので、最終的な金額は審査を受けてみないとわかりません。
資金計画を立てる際に役立つ借入可能額の目安を知るためには、住宅購入価格が年収の何倍程度になるかを示す年収倍率と呼ばれる指標が参考になります。
図表1は、建物種別の年収倍率を表したものです。
図表1
建物種別 | 年収倍率 |
土地付注文住宅 | 7.7倍 |
マンション | 7.2倍 |
建売住宅 | 6.9倍 |
注文住宅 | 6.9倍 |
中古マンション | 5.9倍 |
中古戸建 | 5.7倍 |
出典:独立行政法人住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」
この調査結果は、住宅ローンの借入金額ではなく、自己資金を含めた所要資金に対するものですが、ここから借入可能額を判断すると、一般的に年収の5~7倍程度が目安と考えられます。つまり、年収700万円であれば、借入可能額の目安は3,500万円~4,900万円となります。
借入可能額は金融機関の基準によって算出されるもので、借入金額を決めるための1つの目安ではありますが、適正な借入金額であるとは限りません。実際の借入金額は、返済負担率という指標も考慮して判断します。
返済負担率とは、年収に対して、住宅ローンを含めたすべての借り入れの年間返済額が占める割合をいいます。
返済負担率が高すぎると、長期にわたる住宅ローン返済の間に起こり得る金利上昇や収入減少のリスクに対応できなくなるおそれがあります。一般的には、返済負担率を20~25%に収めると、無理のなく返済を続けられるといわれています。
年収700万円の場合の適正な借入金額を算出する方法を具体的にご紹介します。
適正な借入金額は年収と返済負担率に基づいて算出しますが、より安定して返済できる借入金額を知るためには、額面年収ではなく、所得税や住民税などを差し引いた手取り収入を基準とします。
手取り収入は一般的に年収の約70%程度といわれることから、年収700万円の場合、手取り収入は約490万円です。返済負担率を手取り収入490万円の20~25%の範囲内に抑えるとすると、年間の住宅ローン返済額は約98万円~122.5万円となります。
これを12で割り月々の返済金額を算出すると、8.2万円~10.2万円になります(ボーナス返済なし)。この返済額の範囲に収まる借入金額は、約2,904万円~3,613万円(返済期間35年、借入金利1%、元利均等返済で計算)となります。
ここまで見てきたように、借入可能額と適正な借入金額には違いがあります。借り入れできる金額と無理なく返済できる金額は異なるという点には注意しましょう。
年収700万円の方の借入金額の目安について解説してきましたが、実際に借り入れするとなると、家計の状況や金利タイプ、返済計画なども考慮する必要があります。
ここでは、住宅ローンを組む際の注意点について解説します。
借入額は、実際の家計の収支バランスを見ながら判断することが大切です。住宅ローン借入金額や返済額は、のちのち必要となる教育資金や老後資金にも影響する可能性があります。
そのため、年収倍率や返済負担率だけでなく、必要となる生活費や将来のための貯蓄に充てたい金額も踏まえ、借入金額を決めることが必要です。
希望するマイホームを購入するためには、必要な資金を準備しなければなりません。ただし、借入可能額はあくまで目安ですので、借入可能額の上限いっぱいで借りるのではなく、無理なく返済できる金額を基準に資金計画を立てることが大切です。
その結果、物件探しや家づくりの条件を見直す、または優先順位を変える必要が出てくるかもしれません。
住宅ローンには、固定金利型と変動金利型があり、自分に合った金利タイプを選択することが大切です。固定金利型は金利上昇リスクを回避できる一方、借入金利が変動金利型より高めに設定されています。
低水準の金利が続く中、変動金利型を選ぶ方の割合は増加傾向にあり、国土交通省が実施した「令和4年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」によると、8割近く(76.2%)の方が変動金利型を選んでいます。
ただし、一般的に変動金利型の場合は半年ごとに金利の見直しが行われるため、経済状況や金融政策などの影響によって将来的に金利が上昇する可能性もあります。
特に、年収倍率や返済負担率が高い場合、金利が上昇した場合の影響も大きくなります。
そのため、変動金利型を検討する際は、金利が上昇した場合の返済額や返済負担率をシミュレーションしておくと良いでしょう。
住宅ローンの返済計画を立てる際、返済期間は月々の返済額と総返済額を比較しながら決めましょう。返済期間が長ければ毎月の返済額は抑えられますが、完済までの総返済額や利息負担は増えます。
一方、返済期間が短いと返済負担率が上がるため、返済期間中の家計への影響が大きくなりすぎないか確認する必要があります。
また、返済期間は完済時の年齢も含めて検討したほうが良いでしょう。今では40代で初めて家を購入される方も少なくないですが、同じ700万円の年収でも、30歳で買われる方と40歳で買われる方では、現役期間、リタイアまでの総収入に違いがあります。
そのため、お子さまの独立やリタイアする時期、再雇用に切り替わり収入の減少が見込まれるタイミングなどを踏まえ、繰り上げ返済も見込んで返済期間を考えましょう。
このように、返済額や返済期間を決めるには、完済までの長期の視点で負担感を考える必要があります。
年収700万円の方の住宅ローン借入金額の目安について解説しました。借入可能額は金融機関ごとの審査基準に基づいて決まるのに対し、適正な借入金額は、一人ひとりの状況を踏まえて判断する必要があります。
同じ年収700万円でも、適正な借入金額は一人ひとり異なるのです。手取り収入に対する返済負担率など、住宅ローン返済の負担をより具体的にイメージしやすい指標で考えてみてください。
また、住宅ローン返済の負担感は、金利や借入金額だけでなく、返済期間によっても異なります。毎月の返済額、借入期間を比較し、完済までの返済計画を立てながら、借入金額を検討しましょう。
株式会社あつみ事務所 代表
建設会社・ハウスメーカーで建築設計、不動産売買仲介を経て、不動産・住宅専業ライターとしても活動。これまで不動産・金融メディアを中心に300本以上の記事執筆を手掛ける。現在、不動産売買や住み替えを中立的な立場でサポートするサービスを提供しながら情報発信を行う。
【保有資格】宅地建物取引士・ファイナンシャルプランナー2級技能士・住宅ローンアドバイザー